前回の話とは違った状況で、引っ越し先で霊現象に遭遇した方もいます。その方は築年数が30年を越えた4階建てのマンションに住んでいました。ワンフロアには3室あって、合計12室の小さなマンションです。築30年を越えていても数年前の大規模改修の際に室内も大幅にリフォームしています。そのため築年数が古い割には、室内はきれいですから、割安物件と考えて引っ越してきたのです。

 

この方は、引っ越しを済ませてしばらく経った頃から、深夜にドアの外を歩く足音に悩まされるようになりました。エレベーターの無いマンションなので外階段を歩く足音は深夜には良く響きます。しかし足音は、外階段を上り下りしているのではなく、この方が住む3階の廊下を行き来しているのです。この方が住んでいるのは階段から最も離れた3階の奥にある角部屋(303号室)です。ですから自分の家に訪れる来客以外が、303号室の前を歩くはずはないのです。しかも、時間は決まって午前2時過ぎになります。まさに丑三つ時です。(※丑の刻とは午前1時から午前3時の2時間になります。それを1時から順に4つに分けた時の3番目=2時から2時30分が丑三つ時です)このような時間に誰かが自分の部屋を訪ねてくるわけはありません。

 

コンクリート造りのマンションですから、コツ、コツという足音は、室内にいても良く聞こえます。深夜に響くこの足音は、外階段から3階の廊下に入り、301号室から303号室までを何度も行き来して、30分ぐらいすると階段へ戻っていきます。その間、足音で目を覚ましてしまうと、恐怖でもう眠ることは出来ません。布団の中に潜り込んで、足音が去っていくのをひたすら願うしかないのです。一度、勇気を出して、ドアスコープから廊下を覗いたことがあります。足音はドアの外で響いているのに覗き窓からは何も見えません。そのとき勇気を出して、ドアを思い切り廊下へ向けて開きました。すると足音はピタリと止まって、誰もいない廊下が目に入りました。廊下の天井に付けられた電灯が不気味に揺れていました。

 

この方によると、廊下の足音は恐怖でしたが、部屋の中では特に怪異は見られません。不動産屋に問い合わせても、このマンションで自殺や事件は聞いたことが無いと言われました。ただ、どうしても気になるので真相を確かめるために私に相談してきたのです。

 

私はマンションの建物と外階段と廊下の画像を送信してもらいました。確かに階段から3階の廊下の奥まで、霊が何度も往復している痕跡は感じます。この痕跡は他のフロアでは感じません。私にはこの不浄霊はまるで何か落とし物でも探すように、3階の廊下を行き来しているように見えました。この廊下には何かあると感じましたが、画像からはそれ以上は分かりませんでした。そこで私は相談者に話しました。

「このマンションは数年前に大規模改修と大幅なリフォームを行ったとうかがいましたが、それ以前はどのような状態だったのでしょうか。何かそこに答えがあるように思います」と。

 

相談者は私の言葉を聞いて、不動産屋へこのマンションのことを再度確認しました。その結果、この足音の原因が分かりました。このマンションは大規模改修が行われる前は、ワンフロアには4室あったのです。つまり、3階には304号室が存在していたのです。当時の間取りは3畳や4畳半など各部屋が狭く、時代にそぐわなくなったため、6畳や8畳の部屋を作り、1室を広くしたのです。その分、ワンフロア4室を3室にしたため、以前あった304号室は消滅していたのです。

 

そして304号室に長く住んでいた方が亡くなり、思い出深い304号室を一目見たいと執着して、夜な夜な304号室を探して3階の廊下を歩いていたのです。そのため誰かに取り憑いたり、霊障を与えることはなく、足音だけが深夜に鳴り響いていたのです。私は階段から廊下に入るところに結界を張りました。そして不浄霊が廊下に侵入できないようにするとともに、この霊を供養してマンションを離れました。