先日、私に相談された方は、一歩間違えば命を落とす病気から3か月で回復して職場復帰しました。その方は、まだ24歳の若くて優秀な女性で、会社でも入社2年目にして管理職に抜擢されてバリバリ働いていました。ところがある日曜日、休日で友人と出かける予定の彼女は、一人暮らしの自室で外出する準備をしていました。しかし、突然激しい頭痛に襲われたのです。それはハンマーで頭を割られるようなひどいものでした。”この痛みは尋常でない”と思った彼女は、すぐにスマホで救急車を呼ぼうとしました。しかし、左手でスマホを握って、119番をプッシュしようとしたものの、手に力が入らずにスマホを操作できません。それでも両手を使って必死でボタンを押して、何とか救急車を呼びました。意識はありましたが、身体が自由に動かせなくなっていました。近くの大学病院に救急搬送された彼女の病名は”クモ膜下出血”でした。
病院では直ちに手術の準備が進められました。そして”脳血管のカテーテル治療”という方法で手術が行われたのです。この治療法は、足の付け根の動脈(大腿動脈)から、直径2mmほどのカテーテル(ガイディングカテーテル)を挿入します。そして血管の中に造影剤を流して、X線透視を行います。その拡大画面を見て、血管の形や走行を確かめながら、ガイディングカテーテルを目的の部位の手前まで誘導します。そしてガイディングカテーテルの中から直径0・5mmほどのマイクロカテーテルを目的の部位まで到達させて、これを操作して治療するのです。頭や首を切開したり、骨を外すことなく行えるので、患者にとっての肉体的負担の少ない治療法です。
彼女の手術は無事に終了しました。彼女はその後はICUに2週間入りました。それから一般病棟に2週間入院しました。そして退院後に実家へ帰って2か月間リハビリをして、発症から3か月で職場復帰を果たしたのです。
発症後に自分ですぐに救急車を呼ぶことができたため、後遺症も残らずに社会復帰をできたのは不幸中の幸いでした。ただ、彼女によると、手術中に麻酔で眠っている間、ずっと夢を見ていました。そのとき3年前に亡くなった彼女のお祖父さんがずっと出てきたというのです。彼女は、子供の頃は両親が共働きで昼間は家にいなかったので、ずっとお祖父ちゃんと遊んで過ごしていました。お祖父ちゃんはいつも優しく彼女をかわいがってくれました。そして悪いことをして両親に叱られると、いつもお祖父ちゃんのところへ逃げて助けを求めました。お祖父ちゃんはいつでも彼女の味方をして庇ってくれました。お祖父ちゃんは彼女の両親から、
「お父さん、しつけですから甘やかさないでください」
と怒られても、笑顔で”分かった、分かった”と言いながら、あぐらをかいた膝の中に彼女を座らせたのです。そのとき、お祖父ちゃんから伝わってくる優しさや温かさやお祖父ちゃんのぬくもりを彼女は手術の間、ずっと感じていたのです。不安で仕方なかった手術の間中、おかげでずっと安心することのできた彼女は、手術が終わると
「麻酔が切れて目を覚ましたら、もうすべてが終わっていた」
と、笑顔で話したのでした。
「シュンさん、お祖父ちゃんが手術の間、私を守ってくれていたのでしょうか?」
彼女の問いに私は即座に答えました。
「亡くなって3年ですから、まだお祖父さんの魂は現世に残っている可能性があります。現世にとどまっていれば、あなたがピンチの時にお祖父さんが助けに来ないわけはありませんね」
彼女は優しく微笑んで、私の言葉に大きくうなずきました。(2)へ続く。