先日、ある地方都市で昔は名主をしていたという大きな家へ行ってきました。敷地の中には母屋や離れや蔵など、いくつもの建物が建てられていました。母屋は一部改築されていましたが、優に100年を越える築年数でした。仏間に通されると、大きな仏壇の横には壁の上部にご先祖と思われるご老人たちの写真が額に入れられて飾られていました。ざっと見て数人はいたと思います。家人に話を聞くと、写真の飾られたご先祖たちは、すべてこの家で臨終を迎えたということです。

 

私がこの家に呼ばれたのは、この家で起きている霊現象を抑えることと、住む人のいなくなったこの家をどのような形で受け継いでいくか、或いは処分するのかの相談に乗るためでした。

 

私はまず、家の中を歩きながら、何が作用しているのかその実態を探りました。地方都市にあるこのような旧家では、しばしばご先祖に起因した因縁因果が残されています。それは不浄霊として現世にとどまる霊がいたり、ご先祖の魂が成仏できずにこの家に住みついていることもあります。私は今回は”浄霊”を行わなければならない可能性もあると覚悟を決めて見て回りました。しかし、じっくりと確認しましたが、浄霊をしなければならないほど、悪意を持った悪い霊がとどまっていることはありませんでした。ただ、この家に住んでこの家で人生を終えた方たちが何人もいるので、その人たちの思いが霊ハク(=そこに住んでいた人たちが残していったネガティブな想念)となって重く滞留していました。

 

この家の人たちを憎んだり恨んだりして現世にとどまっている不浄霊がいなかったことは救いでしたが、この家にとどまっている霊ハクも軽く見ることは出来ません。実際にこの家では、深夜に誰もいないのに、人が廊下を歩く時に響く、床がきしむ音がしばしば聞かれています。居間で話をしているときに、後ろの方を通り過ぎた人影を複数で目撃したこともあります。悪くすると亡くなった方たちの強い思いが、生きている人を死の世界へいざなうこともあります。その結果、同じ家の中で何人もの人が亡くなってしまうことも起こるのです。

 

以前、事故物件の情報ウェブサイトを運営している”大島てるさん”の記事で、人が何人も亡くなり、事故物件となった家の話を読んだことがあります。大島さんはそのアパートのことを”決して生きて出られない、事故物件の聖地”と述べていました。大島さんによると、そのアパートは、どこの駅からも離れたところに建つ3階建ての建物です。アパートと言っても1階には大家さんの仕事場と居住スペースがあり、2階と3階には一部屋ずつしかない小さな建物でした。そして3階の上の屋上は平らになっていて、洗濯物を干せる空間が広がっていました。

 

まず、最初にこの屋上で住人が、物干し竿か手すりを使って首を吊って自殺しました。次に3階で入居者同士が酒に酔った末に喧嘩になって、一方の男性がビール瓶で相手を殴って殺しました。そして1階に住んでいたこの物件のオーナーのお婆さんが、何者かによって刃物で刺殺されてしまったのです。そして警察の捜査の結果、犯人はこのアパートの2階の住人でした。この住人は埼玉県の山奥で自殺体となって発見されたのです。そして屋上の自殺から2階の住人の自殺までにかかった時間はわずか4年間だったのです。屋上で始まった1つの死が、まったく関連の無い他の死を次々に誘発して、このアパートに住む人は誰もいなくなりました。

 

私がうかがった旧家では自殺や事件が発生したわけではありません。ただ、自然死であっても、死んだ方の強い思い(=念)が残る家では、一つの死が次の死を呼び込むように続けて人が亡くなっていくことがあるのです。私はこの家に残る霊ハクをしっかりと祓って家路に着きました。