先日、私に相談した方は、私の顔を見るなり、
「今、特に大きな問題を抱えているわけでも、深刻な悩みがあるわけでもありません。ただ、いつもと同じ仕事をして、いつもと同じ一日を過ごしています。平穏な毎日を送ることが出来るのは、幸せなことだとはわかっています。それでも新たな出会いも発見も無く、マンネリな毎日が流れていくと、これでよいのかと不安になるのです」
そう言って目を伏せました。
私はこの方に話しました。
「目の覚めるような素敵な出会いや脳を活性化してくれるような新しい発見は、向こうから自分のところに訪れてくるものではありません。自分自身が感性を磨いたり、アンテナを高くして周囲を見回すことで、それはあなたが見つけ出していかなければならないものです。新しい発見はいつだってあなたの周りにあふれています。それを見て新鮮な刺激を感じ取ることができるのか、よどんだ瞳で眺めて何も感じずに通り過ぎるのかは、あなた自身が決めているのです」と。
1754年にイギリスの政治家であり小説家のホレス・ウォルポールが生み出した造語がserendipityです。意味は素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見することです。また、何かを探しているときに、別の価値のあるものを偶然に見つけることを言います。分かりやすく言うと、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ることです。
この言葉の語源はホレス・ウォルポールが「セレンディップの3人の王子」という童話を読んだことに始まります。3人の王子たちは、旅の途中で、意外な出来事にたびたび遭遇しますが、聡明さによって元々は探していなかった素晴らしいものを発見していくのです。たとえば一人の王子は、自分が進んでいる道を少し前に片目のロバが歩いていたことを発見します。その理由は、道の左側の草だけが食べられていたからです。
自然科学の世界ではセレンディピティは数多く見つかっています。
1866年のアルフレッド・ノーベルによるダイナマイトの発明。
1895年のヴィルヘルム・レントゲンによるX線の発見。
1898年のキュリー夫妻によるラジウムの発見。
1898年のハンス・フォン・ペヒマンによるポリエチレンの発見。
1928年のアレクサンダー・フレミングによるペニシリンの発見。
1938年のアルバート・ホフマンによるLSDの幻覚作用の発見。
1938年のロイ・プランケットによるテフロンの発見。
1967年の白川英樹による導電性高分子の発見。
1967年の核実験監視衛星ヴェラによるガンマ線バーストの発見。
これらはすべてセレンディピティによって発見されているのです。
フランスの生化学者「ルイ・パスツール」は1854年のリール大学学長就任演説で、
「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」
と述べています。これはセレンディピティは、たまたま偶然に訪れたものではなく、自分自身の中にそれを受け入れる素地を作り、それを感じ取る準備ができていたから発見できたということです。
人生は偶然を装った必然の連続で成り立っています。今日出会う人、訪れる場所、受け取るメール、たまたま聞こえてきた他人の会話、立ち寄ったレストラン、そんな決まりきった日常の中に、これからのあなたの人生を変えていく重大なヒントが隠されているかもしれません。どのような偶然があなたを導いてくれるのか、今日は一日、アンテナの感度を上げて耳を澄まして行動してみてください。