人は自分の気持ちが代わると目に見える景色が変わってきます。上司からいつも叱責を受けている方や成績を上げることのできない営業社員は、通勤途中に目にする景色もどんよりと曇っているはずです。でも、どこかで自分の気持ちを前向きに切り替えることができれば、毎日見慣れている通勤途中の景色にも新しい発見を見出せるはずです。

 

私に相談した30代の男性は、トラックの運転手をしています。元々車が好きなことと、コミュニケーションが苦手で選んだ仕事でした。朝、会社の車庫を出て、配送センターまでトラックを走らせます。そこで今日の配達伝票を受け取り、センターの倉庫にある商品をトラックに積み込みます。それから伝票に記載されたお得意さんの会社へ商品を配送します。そして夕方までにすべての商品を配り終えて会社の車庫に戻ります。もう5年間も毎日この作業を繰り返しています。

 

入社した当初は人付き合いの少ないこの仕事が気に入りました。1日のほとんどは誰とも口をききません。お得意さんの会社に行っても挨拶以外には言葉を交わすことはないのです。しかし、毎日同じ場所で荷物を積んで、同じ道を通って、同じところに荷物を下ろす。これを繰り返す仕事に向上心は持てませんでした。そして達成感も満足感も感じられない毎日を送っていたのです。

 

私は彼に話しました。

「仕事のやる気や向上心は誰かに与えてもらうものではありません。単純に思える仕事の中にも生きがいを見つける余地は必ずあります。それはあなた自身が見つけ出していかなければならないのです」と。

 

彼は私の言葉を聞いて、今の自分の仕事の中に、どのようなやりがいを見出せるのか考えました。安全に大切に品物を運ぶことはとても大切なことです。しかし、それはドライバーなら誰もが心掛けていることで、モチベーションのアップにはつながりません。そこで彼は、商品を安全に大切に運ぶことの他に、“誰よりも早く”届けることを目指したのです。

 

それは制限速度を超えてスピードを出すということではありません。それではプロのドライバーとして失格です。彼は普段商品を運んでいるルート以外のさまざまなコースを研究したのです。都心の幹線道路は常に渋滞していますから、時間に追われるドライバーは普段から抜け道を使います。ただ、それも道路状況によっては第2、第3の抜け道を使った方が早く商品を届けられることもあります。彼は皆が使っている抜け道以外の近道をさまざまに研究して、常に誰よりも早く商品を届けたのです。そのことに荷主さんやお客さんが喜んだことは言うまでもありません。また、会社でも、いつも道路渋滞で困っているたくさんのドライバーから、しばしば近道を尋ねられるようになりました。彼は会社の中でも他のドライバーから一目置かれる存在になりました。彼はルート配送という向上心を持ちにくい仕事の中に、見事にやりがいを見出したのです。そして彼は私に言ったのです。

「シュンさんが話していた通り、気持ちが替わると景色は変わるんですね。つまらない仕事だと思ってハンドルを握っていた時には、見えなかった美しい景色が、私の配送ルートにはたくさんあったのです。川沿いの土手を走れば、草花が四季の色彩を鮮やかに彩ります。窓を開ければ鳥のさえずりや風の音が聞こえてきます。今まで自分では気づきませんでしたが、私は自分に合った仕事をちゃんと選んでいたのです」

 私には彼がこれからも生きがいを感じながら笑顔でハンドルを握る姿がはっきりと浮かんできたのです。