2~3日して彼女からメールが届きました。そこには意外な言葉が並んでいました。

「シュンさんには今回のことで、上司や会社とどのように戦ったらよいのかその方法を具体的に教えていただきました。ありがとうございました。上司のパワハラは今も続いています。ただ、このままパワハラを訴えて上司に懲戒処分を求めることはやめることにしました。どうするのか本当に悩みましたが、悩んでいるうちに気付いたことがあるのです。結局、何を言われても、それをどのように受け止めるのかは自分の問題なのではないかと。女性上司や他の上司や同僚の態度に私はたくさん傷つきました。でも、それは受け止める側の私の問題として解決していかなければ、上司が代わってもまた同じことを繰り返すだけだと思ったのです」

私はこのメールを見て、正直ほっとしました。彼女には苦しい時間が続きましたが、まさに女性上司は“逆縁の仏”となって、とても大切なことに気付かせてくれたのです。

「もし、それでご自身の気持ちが収まるなら、それに越したことはありません」

私は彼女に励ましの気持ちを込めて返事を書きました。今回のパワハラは会社という組織を動かさなくても彼女の気持ちのあり方を変えることで解決できると感じたからです。

 

ブッダは人の心のあり方について次のように述べています。

「君は君の心の奴隷であることなく、君の心の主人であるように。君こそが君の最後のよりどころ。自分以外の何にもすがらず、自分の心を調教する。まるで自分の仔馬を丁寧に調教するかのように」

さらに、

「君を苦しめる感情すなわち、かなわぬものを求める欲望と、いつまでも反復する怒りは、他人が作ったものではなく、君自身の心身から生まれる。好き嫌いと言うわがままも恐怖によってビクッとすることも、君の心身によって作られる」

そして、

「ほかならぬ自分によって自分を励まし、自分によって自分を諫める。そのように、自分によって自分を守り、自分の内側を見つめていけば、君はいつだって心穏やかな日々を送る」

このように述べているのです。

 

感情と言うやっかいなものを持っている人間にとって、心の平穏を保つことは簡単ではありません。ましてやハラスメントのように、外から火の粉が降りかかれば、おのずと降りかかる火の粉を払いのけることになります。そしてその瞬間、心は乱れ平穏は失われます。しかし、外から降りかかる火の粉を払うことなく、自分の中で消火してしまうことができれば心の平穏は保たれます。人間は五感によって感じとります。目に見えたものや耳で聞こえた状況から脳で判断して対応します。指先で触れて“気持ちが良い”と感じているのは、指先ではなく脳(心)になります。つまり自分で自分の心を制御することができれば、どのような暴言を吐かれても(=どのような言葉が耳に入ってきても)心は傷付きません。そこに暴力が無ければ、常に心穏やかに周囲に惑わされたり、振り回されることなく生きていくことは出来ます。(悟りを開いている人であれば、たとえ暴力を振るわれても心の平穏は保てるという人もいますが、現実にはそれは困難です)

 

常に他人や周りの状況ではなく、自分の内面に目線を向けて生きていくことができれば、心は穏やかに安定します。これは口で言うほどたやすいことではありません。しかし、彼女がパワハラと言う苦しみの中から、この本質に気付いたとすれば、それは彼女にとって大きな収穫です。まずは今日から他人の持ち物や他人の言動を気にしないで生きてみてはいかがでしょうか。