以前、会社で上司からパワハラを受けているという女性から相談を受けました。その方の年齢は40代前半です。ほぼ同年代の女性の上司は、最近になってこの部署に異動になりました。この上司と上手くやっていたのは、異動した後の1か月ぐらいです。時間が経って今の職場に慣れてくると上司の態度は見る見る高圧的になっていきました。特に相談者は仕事の流れで上司の判断を仰がなければならないことが多くあります。そして上司の指示を受けたり決済を受けるたびに、

「あなたは、何回言ったらわかるの!忙しいんだから同じことを何回も言わせないで!あなた、日本語理解できてるの?いったいここで何年仕事してるの?私の指示をもう一度、反復して言ってみなさい!」

そうやって他の社員の前で、上司が言った指示を何十回も大声で言わされるのでした。

 

そこまで上司が高圧的になると、彼女は仕事上で分からないことを上司に尋ねることもできなくなります。何かを訊けば、大声で怒鳴られて、またネチネチと無能呼ばわりされるからです。その結果、上司の思った通りに仕事が進まないと、また上司に怒鳴られて暴言を吐かれます。他の社員や他の上司たちもこの状況は目にしています。しかし、このヒステリーな上司に関わることが面倒で皆が見て見ぬふりをしていたのです。まさに周囲が腫れ物に触るように接していることを良いことに、この上司は益々傍若無人に振舞います。部下には誰に対してもこの態度でしたが、おとなしい相談者には特にきつく当たっていたのです。

 

その結果、彼女の心身に異常が出てきます。体には時々、湿疹が出るようになります。胃腸の具合はいつも悪く、朝起きた後に出勤の支度をしていると、手が震えることもありました。喉がいつも渇いていて夜もよく眠れません。また、気持ちの面では不安や焦りでいっぱいになって、知らないところへ行きたいとか、消えてしまいたいと思うようになりました。そして内科や心療内科を受診するところまで追い込まれていったのです。

 

私はまずは、問題を一人で抱え込まないで、他の上司に相談するように話しました。自分一人で解決の付く問題であれば、自分で解決方法を探してそれを実行すれば、問題は解決します。しかし、自分でどれだけ頑張っても解決しない問題であれば、それを解決できる人間に話して、問題解決の道筋を付けてもらうしかありません。会社の問題であれば、上司がいるはずですから、まずはその人に相談して解決を図るのが筋です。上司が自分よりも多くの給料をもらっているのは、上司には部下の状況を把握して、問題があればそれを解決していくことも仕事だからです。リーダーは自分のチーム全体の生産性をあげることも大きな役割です。そのために個々のメンバーのやる気を出させたり、方向性を示すこと。そして悩みがあるならそれを把握して解決していくことも大切な仕事なのです。ですから彼女は今の状況を遠慮なく他の上司に相談して良いのです。

 

彼女は勇気を出して、以前の上司だった他の管理職にこの問題を相談しました。しかし、その上司はパワハラの状況を認識していながら、見て見ぬふりをしていた一人です。予期していたこととはいえ、この問題を積極的に解決する意思を示しませんでした。この問題はパワハラではなく人間関係の問題であると言いました。人間関係で上手く行かなくなることはどこの会社でも起こることなので、彼女にも女性上司と上手くやるように努力してほしいと逆に諭されたのです。

 

彼女はこの対応に大きく落胆するとともに、怒りが込み上げてきました。パワハラとは“職場内の優位性を利用した地位の強い者による自らの権力や立場を利用した嫌がらせのこと”です。女性上司の行っていることはまさにパワハラそのものです。彼女は、当事者の女性上司もそうですし、パワハラを認めない上司や会社側に対して怒りを募らせたのです。そして自分がどう対抗したらよいのか私に尋ねてきました。(2)へ続く。