「お婆さんにお子さんや法定相続人がいなかったとして、今のオーナーの奥さんが遺言によってこれだけの家を相続した理由は何なのでしょうか。何かお婆さんから頼まれたことや約束、或いは感謝されるだけの出来事などがあったのでしょうか」

私の質問に業者の男性は困惑したように話しました。

「私も詳しくは知らないのですが、お婆さんが生きていたころに、お付き合いのあった方はオーナーの奥さんぐらいしかいなかったと聞いています。お婆さんの親や兄弟はすべて亡くなっていていません。オーナーの奥さんは、お婆さんのいとこの娘さんになります。遠い親族ですが、他に身内はいないのです。オーナーの方は目黒のマンションに住んでいます。ガーデニングが好きだったオーナーの奥さんは、マンションのベランダにプランターを並べて、きれいな花壇を作っています。ですから奥さんにしても、この家の庭をお婆さんと一緒に手入れをすることは、とても楽しかったようです。そこでお婆さんの様子を見ながら、時間を見つけてはこの家を訪れていたようでした」

 

私は業者の男性の話を聞きながらさまざまなシーンが頭に浮かんできました。お婆さんとオーナーの奥さんが二人で並んで笑顔で土をいじっている様子。そのときお婆さんは、

「この庭は私が生きたことの証だから、もし私が死んだらあなたが引き継いでいつまでもきれいな庭にしてちょうだいね」

と話しています。それに対してオーナーの奥さんは

「そんな縁起でもないこと言わないで、いつまでも長生きしてください」

と笑って答えていました。

 

また、他のシーンでは、お婆さんがリビングのテーブルで自筆の遺言を書いています。そのときのお婆さんの思いは、明らかにこの家の庭をオーナーの奥さんに託しています。自分と同じように草花の大好きなこの人なら、この庭に対する自分の思いを受け継いでくれると考えて遺言をしたためたのです。お婆さんはオーナーの奥さんとの何気ない会話の中で、自分が死んだ後、この庭を守ってほしいと明確に口にしています。それに対して奥さんは

「はい、わかりました、安心してください」

と気安く答えていたのです。奥さんにとっては何気ない日常会話の一つですから、この会話自体を覚えていないのかもいれません。しかしお婆さんにとっては自分の生きた証を残していけるのかどうかの覚悟を決めた重要な約束だったのです。

 

私がこのことを感じ取ったあと、不浄霊として庭に現れるお婆さんの様子が浮かんできました。お婆さんは目を吊り上げてこの家に住む人たちに怒っています。その言葉は、

「ここはお前の住む家ではない」

「私はお前を認めない」

「すぐにこの家から出ていけ」

という厳しいものです。お婆さんからすれば、自分の認めた人間以外がこの家に住んで、この庭に立つことを許せないのです。ましては庭に何の興味も示さずに草木に水をやったこともない人間がこの家に住んでいれば、ただちに追い出してしまいたいと考えているのです。それが霊となって、この家の庭に現れる理由だったのです。

 

私は自分の感じたことを相談者の業者に話しました。そしてお婆さんの気持ちを踏まえた上で、この庭を守っていくことができないか、オーナーの奥さんと話をしてほしいと伝えました。(3)へ続く。