私は最初、しばしば幽霊の目撃談があるこの病院には、たくさんの不浄霊が集まっているのではないかと思いました。或いは大きな霊道が通っている可能性もあると考えました。しかし、2日間にわたって時間を替えて私が病院の廊下を歩いた中で感じた不浄霊の痕跡は3体しかありませんでした。ということはこの3体の不浄霊が病院中をしばしば歩き回っているということになります。
普通は不浄霊が建物の中を移動しているときは、目的を持ってどこかへ向かいます。それは霊安室だったり、手術室だったりします。自分が命を引き取ったり、長く入院していた病室のこともあります。しかし、私が辿った霊の痕跡は、4階でも5階でも廊下の東側の突き当りの手前で消えてしまいます。そしてしばらくするとナースセンターの辺りに現れて、また廊下を歩いてこの辺りをうろうろしているのです。ただそこには外へつながる出口も廊下から入れる部屋も無いのです。冷たく白い壁があるだけです。
私は不浄霊の動きから、廊下を歩きながら何かを探しているのではないかと感じました。そこで不浄霊が消えてしまう壁の辺りを指さして、院長に尋ねました。
「この壁の奥はどうなっていますか?」
院長は私を手招きして、ナースセンターに近い廊下のドアを開けて、私を壁の裏側に当たる場所まで案内してくれました。しかし、私が見た部屋は、医療器具や検査器具などが雑然と置かれた倉庫のような広い部屋になっていました。今は人が出入りしている様子はありません。ただ、この部屋には明らかに人の気配が強く残っていました。しかもこの気配は、廊下を歩きながら感じた不浄霊のうちの1体と同じ波長のように感じたのです。
「院長、この部屋は以前もずっと物置として使っていたのですか?過去に改築や増築をしたことはありませんか?」
すると院長は、
「はい、以前は長期入院している患者さんの病室として使っていました。ただ、他に病棟を建てましたので、病室はそちらへ移転したため、今はとりあえず、物置のようになっています」
私は院長の答えを聞いてさらに質問しました。
「5階のこの場所は今は検査室になっていますが、そこも以前は病室だったのではありませんか?」
院長は少し驚いて私の顔を見ました。
「よくわかりますね。診療科目が違いますが、5階のこの場所も以前は、長期入院患者の病室になっていました」
私はようやくこの問題の謎が解けました。たとえば長期入院患者でも、長く暮らしたお住まいがあり、そこに仲良く過ごしたご家族がいるような場合は、亡くなった後は自分の家へ戻ります。そこにしばらくとどまった後に、生まれた場所から死んだ場所までを辿る旅に出ながら、自分の人生を総括します。これを何十回、何百回と繰り返しながら、いずれあの世へ上がっていきます。しかし、入院前から一人で孤独に過ごしたような方は、入院中に毎日、明るく話しかけてくれた看護師さんや医師や病院スタッフと暮らした病室に強く思いを残してしまうことがあるのです。そうなるとその魂は、死んだ後に自分の思いの残っている病室に何十回、何百回とやってきます。そこから人生を総括する旅へ出て、あの世へ上がることになります。そのとき、あるはずの病室が消えていればどうするでしょうか。その魂は思いの残る部屋を探して、自分の残した気配を頼りにその辺りを探し回るのです。この病院の中をうろうろしていた3体の魂は、死の瞬間まで過ごした思いの残っている病室を探していたのでした。
私は4階の物置部屋と5回の検査室に残っていた3体の霊の気配を消しました。それから進む方向を見失っていた3体の霊に、あの世へ上がる道筋を示しました。それからしばらくして院長から連絡があり、病院の中で続いていた不思議な現象も幽霊の目撃談もこれ以来、無くなったということです。