私はさらに話を続けました。
「この会社はあなたが2千万円を追加で貸しても貸さなくてもいずれはつぶれます。それによってご親族の方は返済を焦げ付かせた多くの方に責められます。それでもこの方は殺されるわけではありませんし、自殺をすることもありません。生きてまた、再び会社を立ち上げてチャレンジする日が来ます。この方を助けるお気持ちがあるのでしたら、その時にお金を出してあげてください。今、彼を助けるお金は、会社と共にあっと言う間に無くなりますから、何の意味もない死に金にしかなりません。会社の負債を膨らますだけです。しかし、彼が再起を期したときに出すお金は、生きたお金として彼の再起を助けるものになります」
相談者の方は私の話にいちいちうなずきながら、こう口を開いたのです。
「よくわかりました。今、苦しんでいる彼を助けることをできないのは、本当に口惜しくてかわいそうでならないのですが、心を鬼にして断ります。シュンさんの言葉を聞いて、彼がいずれ再起を期す時が来ると確信しました。それなら、その時に生きたお金を遣って支援します。今は彼に恨まれても、私もその日が来るまで辛抱します」
相談者の方は、
「迷いが晴れました。私も覚悟を決めて本当の意味で彼の将来を支援します」
そう言って帰っていきました。
“諸行無常”ということは、今が良くてもそれが将来も続くとは限らないのです。逆に今が悪くても、それが将来も続くとも限りません。だから将来の選択について誰もが悩み、迷うことになるのです。
たとえば今の会社に10年勤めて、一通り仕事をこなせるようになっている方がいます。新人の頃は仕事を覚えることに必死で、脇目もふらずに仕事に取り組んできました。ただ、10年も経てば自分の仕事も周囲の仕事も仕事の流れも分かります。そうして気持ちにゆとりが持てるようになると、視野が広がってきます。自分の仕事を取り巻く状況まで目が行き届いているうちは良いのです。ただ、さらに視野が広がって、同業他社や自分のスキルを活かせる他業種の状況まで目に入ってくるとおのずと欲が頭を持ち上げてきます。
~今の自分の給料は他社に比べて安いのではないか。今の自分のキャリアからすれば、もっと責任のあるポジションに就けるのではないか~
そんなことを考えはじめたころになると、それを見透かしたように転職や独立の話が舞い込んできます。そして私のところにもそういった相談がくるのです。
私はそのときに、その人の未来を感じ取る中で、その人が幸せを感じている道筋をお伝えしています。その人によって今の仕事にとどまった方が将来的に幸せなのか、或いは転職や独立をした方が幸せになるのかは異なります。人には本来、自分の将来を感じとるアンテナが備わっています。その感度は霊能者のように確かなものではなくても、何となく“この道へ進んだ方が良いのではないか”といった感じ方はできているはずです。しかし、その感度を狂わすものがあります。それが“欲”なのです。欲が入り込んでくると、未来を感じ取るアンテナは大きく感度を狂わせてしまいます。
先日も私に独立の相談をしてきた方がいました。その方は大手のメーカーで長年技術職を勤めていました。元々学究肌で研究開発はこの方に合っています。実際、高いスキルを持っています。そこに取引先の社長が目を付けて、この人に独立を勧めてきたのです。この社長の会社はとても経営状態が良く、上場会社とも取引関係を持って、安定して成長しています。この社長が出資して独立の資金は提供するので、新会社の社長として、研究開発を引っ張ってほしいというのです。給料は今の倍近くになります。仕事も好きなように進めて構わないと言います。これ以上ない好条件での独立話でした。この話だけを聞けば、断る理由はどこにもありません。私はこの話に乗った時に、相談者がこれからどのような未来へ進んでいくのか観てみました。(3)へ続く。