人生では時間が経過する中で状況は刻々と変化していきます。“諸行無常”という言葉があります。これは仏教の用語で、この世に存在する森羅万象は、姿も本質も常に流動変化していて、一瞬たりとも存在の同一性は保持することはできないという意味です。皆さんが自分自身を振り返った時も、10年前の自分、或いは20年前の自分とは随分変わったと思われるのではないでしょうか。人間は時間の経過とともに姿も中身も変わっていきます。そして自分を取り巻く世界もまた常に変わっていきます。良い意味で変化することは“成長”ですが、悪い意味で変わってしまうこともしばしばあります。

 

ですから今、苦しみの渦中にいる皆さん、その苦しみは永遠に続くものではありません。今は苦しくても正しい方向性へ向けて努力を積み重ねていくことができれば、やがては穏やかで安定した暮らしが訪れることになります。だから今に絶望しないでください。今、幸福の渦中にいる皆さん、今の幸せな時間がこれからも未来永劫続く保証はどこにもありません。ちょっとしたきっかけで幸せだった毎日が、どん底に突き落とされることもしばしばあります。だから幸せに胡坐をかかずに、常に感謝の気持ちを持って努力を怠らないでください。

 

先日、私に相談した方は、会社を経営している親族が、コロナ禍でまったく売り上げが上がらなくなり倒産の危機に瀕していると話していました。そしてこの方にしばしばお金を借りに来ているのです。現時点でこの親族には合計3千万円もお金を貸しています。さらにあと2千万円ないと、翌月の当座の引き落としができないというのです。親族はこの方に何度も頭を下げて、どうにかお金を貸してほしいと頼み込んできているのです。

 

この方は資産家で、あと2千万円を用意することはできます。しかし、私は「もう、お金は貸すべきではない」とはっきりと伝えました。私はこのご親族の画像を拝見して、この会社の未来を明確に感じました。率直に言って、この会社に明るい未来は感じられませんでした。確かにコロナは経営を危うくさせている直接的な要因ではあります。しかし、コロナが経済を悪くする前から、すでにこの会社の経営は下降線をたどっていました。つまり、一見するとコロナによって経営が傾いたように見えますが、本質的にはこの会社の営業スタイルが、すでに今の時流には合わなくなっているのです。そこを改革改善していかなければ、この会社に未来はないのです。そこを改めることなく、コロナによって売り上げが下がったことに責任転嫁している経営者は、いずれ会社を倒産させることにしかなりません。

 

今、この経営者は私の相談者から3千万円もお金を借りています。しかし、この会社の借金は、おそらく会社名義と社長の個人債務と合わせて、4億円は超えています。この会社の売り上げから考えても、もう返済不能になって会社が倒産することは明らかです。私の言葉に相談者の方が尋ねました。

「できれば親族ですし、会社が上手く回っていた時もありましたから、私は何とか助けてあげたいのです。それは間違っているのでしょうか」

私はこの質問にはっきりと答えました。

「お気持ちはわかります。ただ、あなたがいくら資産家でも、永遠にお金を貸し続けていたら、最後はあなたがつぶれてしまいます。今、この会社に肩入れすることは、そうなってしまう可能性だってあるのです」

私は話を続けました。

「私はこのご親族を助けるなと言っているのではありません。今はその時期ではないと言っているのです。今は売り上げも上がらず坂道を転がり落ちている状態です。この状態でいくら資金投入しても会社は持ち直しません。貸したお金はその全額が溶けるだけなのです」(2)へ続く。