私は奥さんに尋ねました。
「この人形はどこで手に入れたのですか」
すると奥さんは、
「夫が仕事でアフリカへ行った時にお土産として持ち帰りました」
と答えました。
私は奥さんに、この人形にはとても悪い念が込められていて、特に片目の部分から、呪詛の念が発信されていることを伝えました。私は自分の頭に浮かんが映像を説明しました。
「木を積み上げて作られた小屋のような家が、広場を取り囲むようにして建てられています。日が落ちて真っ暗になった広場の中心に、薪が積み上げられて真っ赤な炎が燃えています。炎の奥には、祭壇のようなものが作られています。その祭壇の中には、この人形が何体も並んでいます。そして神官のような長老が祭壇の前で何かの呪文を唱えています。神官は呪文を唱えながら焚き火の中に小さな木片を何本も投げ込んでいます。木片が焚き火にくべられるたびに、燃料が入ったように炎は勢いよく燃え盛ります。やがて神官の後ろで村人たちが輪になって踊り始めています。そして踊り手たちは、ドンブリのような器に入った白濁した酒のような飲み物を回し飲みしています。テレビで何度か見たことがある、アフリカの部族の儀式のように見えます」
私は奥さんにさらに尋ねました。
「ご主人はアフリカのどこの国へ行っていたのですか」
奥さんは私の話を聞くと怯えたように青ざめながら、話してくれました。
「アフリカの中でも西部になります。カメルーンやナイジェリアやガーナなどです。この人形はガーナで部族の住む村へ行った時に、祭礼で使う人形だからと言われて、村長のような人からもらったと話していました」
奥さんは私の話を聞きながら何か思い当たるように口を開きました。
「実はこの人形を家に置いてから、今シュンさんが話したような光景を夢の中で何度も見ているのです。しかもその夢を見た後は、朝起きるとベッタリと寝汗をかいていて、寝ているときもとても息苦しくなりました。金縛りに遭うこともありました。まさか呪詛の念が込められているとは思いませんでした」
奥さんは目を伏せながら私に話しました。
「シュンさん、私もう本当に嫌なんです。今お話を聞いたら怖くて、この人形を家の中に置いておくことはできません。もう手に触れるのも怖いので、どうかシュンさんに処分してもらえないでしょうか」
私は納得して承知しました。それは奥さんの気持ちが分かるだけでなく、奥さんやご家族が処分する過程で、さらにひどい災いがもたらされる可能性を感じたからです。
私はこの人形を受け取って持ち帰りました。そして後日、この人形を丁寧にお焚き上げしました。その際、炎が燃えている間中、ずっと呪詛返しのマントラを唱え続けたのです。そしてこの人形に込められている呪詛の念やパワーは煙となって天へ上がり霧散しました。
私は家に帰るとこの人形について調べてみました。するとガーナ共和国に住む“アダン族”という部族が祭壇や祠の中に飾っている人形だと分かりました。日常的な祈りの対象となっているものですが、本来は呪術的な目的で作られた人形と書かれていました。ですからこの人形を呪詛の対象として、私が感じたような儀式が行われていた可能性も十分にあることが分かりました。