テレビ番組の仕事で行方不明の方を捜索したことが何度かあります。以前、北海道の旭川市で失踪した当時小学5年生の男の子を探すように頼まれました。私が捜索を頼まれた時点で、男の子の失踪からすでに3年ぐらい経っていたと記憶しています。男の子は失踪当時、冬の夜10時ごろに、家でお母さんに叱られて、怒って家を飛び出したのです。旭川の冬の夜ですから外は凍てつく寒さです。路面ももちろん凍結しています。その状況の中、ほとんど所持金も持たずに、男の子は家を飛び出したまま、行方不明になったのです。

 

番組には他の霊能者の方が2人来ていました。彼らの見解は、男の子は家を飛び出した後、近くの電話ボックスから、以前から知り合いだったおじさんへ電話をしました。それからおじさんが電話ボックスまで迎えに来て、その晩はおじさんの家に泊りました。それから二人で東京へ向かい、新宿歌舞伎町へ行って、そこで働いているというものでした。男の子には父親がいなかったために、父性にあこがれて、以前から近くに住むおじさんと話をしていたということでした。番組では霊能者の意見にしたがって男の子が今、住んでいるという歌舞伎町の周辺を1週間かけて捜索しました。しかし、何ら手掛かりを得ることができないまま、男の子は発見できませんでした。

 

私は2人の霊能者の見解に違和感を覚えました。まず、スマホや携帯がない時代に、男の子がおじさんの電話番号をずっと覚えていたことが不思議でした。また突然、電話してきた男の子にすぐに対応して、おじさんが電話ボックスまで迎えにきたこと。そしてすぐに東京まで連れて行っていることにも疑問がありました。おじさんのやっていることは“未成年者略取及び誘拐”の罪になります。もし、警官に見つかれば、7年以下の懲役刑に相当する重罪です。おじさんがそこまでの危険を冒して子供を東京まで連れて行くでしょうか。

 

そして何よりも小学校5年生の子供をかくまって働かせてくれるお店があることも謎でした。確かに新宿には自分の履歴を隠して働けるお店はあります。しかし、小学校5年生の男の子を働かせて、もしそれが発覚すれば、経営者は逮捕されますし、お店は営業停止になります。そのリスクを冒してまで男の子を雇うお店があるとは思えません。

 

私の頭には2人の霊能者とは全く異なる別の景色が浮かんでいました。男の子はお母さんに叱られた後に、怒って家を飛び出しました。冬の旭川ですから外は暗くて氷ついています。男の子の家は町の中心部から離れた郊外にありました。外に出た男の子の足は、灯りを目指して市の中心部に向かいます。そして近くの国道に出て黙々と歩き続けます。

 

そのとき凍結した路面でスリップした車が、運転を誤って男の子を跳ね飛ばしました。男の子の体は大きくジャンプした後、重さのある頭の部分から地面にぶつかりました。そしてぐったりとして動かなくなりました。ドライバーは慌てて車から飛び出してきましたが、救護することなく、救急車を呼びに電話ボックスを探すこともありません。それはこのドライバーは飲酒していたからです。そして男の子を後部座席に乗せるとそのまま走り出しました。車は石狩川にかかる国道の橋の脇に止まりました。時間は夜の11時ぐらいです。冬のこの時間ですから国道には車も人も通っていません。ドライバーは男の子を後部座席から引きずり出すと、橋の横から石狩川へ投げ落としました。そして男の子の体は、蛇行した水面を流れて下流へ消えていきました。

 

もう今となっては事故現場に加害車両を特定する証拠は何も残されていません。私はロケの現場で、男の子の体や衣服が見つかる可能性のある下流域を告げました。しかし、私の意見は男の子のご家族を配慮して、大きく取り上げられることはありませんでした。それはこの事件の取材依頼に際して、ご家族から条件が出されていたからです。それは、

「息子が生きて見つかるなら、取材に協力します」

というものでした。したがって私が感じた景色よりは、歌舞伎町で生きて働いているという霊能者の見解が、重視されることになったのです。