定番のうなぎパイ以外にも、食べやすい小さなサイズにカットした“うなぎパイミニ”は、324円という安価で販売していました。逆に“うなぎパイ白焼きギフトB”は9072円という高価で販売されていました。これは広く知られたうなぎパイの内容や価格に幅を持たせることで、幅広くお客様のニーズを掴もうというアイデアでしょう。創業133年の老舗でも、常にお客様のニーズを探り、時代の変化に対応しようという改善の意識を持っていたのです。

 

先日、店舗の経営者から売り上げアップの方策を教えてほしいと言われたとき、私は次のように話した。まずは、商品のメニュー構成を再考して、内容と価格をチェックし直すことです。そのときに競合店の販売価格や粗利を考えて価格を決めることは当然ですが、お客さんを呼び込むための商品と利益を生み出す商品は、別に用意した方が良いです。

 

人間の心理として、一度お金を支払って商品を購入すると、また同じお店で買い物をしやすくなっていくのです。お金を支払うということに、最初は多くの人は警戒心を抱いています。不当に高い買い物をさせられるのではないか、商品に欠陥はないかなどです。その警戒心は一度、自分の意思で取り払ってしまうと、次回はもう少し高いものでもあまり警戒せずに買うようになります。ですからお客様を呼び込むための導火線となる商品はできるだけ価格を安くして、お客様に“お買い得感”を持ってもらった方が良いのです。よくスーパーで特売をやっているのと同じ論理です。その上で利益を生み出す商品を別に用意して、その商品へお客様を誘導することで売り上げを立てていきます。お店のすべての商品に仕入れ値の30%を載せて販売するような売り方は、お客様の目を引きません。

 

また人間は高いお金を支払えば支払うほど、自分からそのお店に執着するようになります。たとえば毎月10万円支払ってクラブやスナックなど、接客を伴うお店に通っている人は、自然と行きつけのお店ができて、お金をたくさん遣ったお店へ通うようになります。同じように毎月10万円を支払って同じホステスを指名しているお客様は、そのホステスを来月も指名して、そのお店へ通うようになります。今まで使ったお金が大きいほど、その実績を失いたくない心理が働くのです。ですから夜のお店で接客業をしている人は、お客さんにできるだけ高いお金を支払わせた方が、そのお客さんはその店から離れにくくなっていきます。お客様本位で3千円で飲み放題をやっているお店にお客様は決して執着しないのです。

 

あとは、売上を上げようと考えるときに、お金に目線を向けるのではなく、視点を変えて人に目を向けることも大切です。もちろん、商売をやっている以上は、売り上げを上げることを誰でも考えます。ただ、売り上げはどこから作られるのでしょうか。それはお客様から生み出されています。つまり、お客様がより多く集まるような流れをお店に作れば、お店に来たお客様はお金を遣い、売り上げはおのずとアップします。

 

私は以前、売り上げが低迷してつぶれかけていた喫茶店の経営者に、店内に小学生の子供たちが書いた絵画を掲げるように話したことがありました。自分の子供の書いた絵画が店内に飾られていると知れば、親や友人も見に来るでしょう。そうやって人が集まる流れができれば、売り上げはおのずと伸びていきます。売り上げというお金から人の流れへ視点を変えたことで、このアイデアは成功しました。

 

同じように地方都市の山間部のバイクショップには、お店の隣にライダーの休憩所を設けて、トイレや簡単な食事を提供するように伝えました。このお店は市内を離れた山間部にあるために、お客さんはほとんどやってきません。ただ、このお店の前の道は、ツーリングをするライダーの通り道になっています。疲れたライダーがしばらく休憩できる場所を提供すれば、おのずとライダーが集まってきます。ライダーが集まれば、それは部品やバイク用品の販売にもつながるのです。

 

同じように結婚式場の中で、弦楽四重奏のアマチュアコンサートを開いて、人を呼び込んだこともあります。コンサートを聴きにやってきた人でも、式場の中に展示されているウエディングドレスや白無垢、華やかな色打掛の和装は目を引くはずです。一度中に入ってもらい、式場の雰囲気を感じていただければ、それが式場の予約につながる導火線になります。

 

このようになかなか突破できない難問でも、柔軟な発想で視点を変えて見直していけば、思わぬところに問題突破の扉が隠されていることがあるのです。