何かの問題をかかえて八方ふさがりになっていると感じるとき、どれだけ歯を食いしばって正面から突破しようとしても、頑張れば頑張るほど扉は固く閉ざされることがあります。イソップ寓話の中にある“北風と太陽の話”を思い出してください。北風と太陽が今、目の前にいる旅人のコートをどちらが先に脱がせることができるかで勝負をします。北風は思いっきり風を吹かせて、旅人の着ているコートを吹き飛ばそうとします。しかし、北風が強く風を吹かせれば吹かせるほど、旅人はコートを強く掴んでしまい、吹き飛ばすことはできませんでした。そして、太陽は暖かい光を燦燦と旅人に降り注ぎます。すると暑くなった旅人は、自らコートを脱いで勝負は太陽が勝ちました。

 

この話はなかなか解決できない問題にぶつかっているときの解決方法を私たちに示唆しています。簡単には解決できないような難しい問題は、正面から乗り越えようとしてもその方策はなかなか浮かんできません。人は難問を解決しようと頑張れば頑張るほど、視野は狭くなり頭は硬直化します。もともと難しい問題に直面しているわけですから、固い頭でどれだけ力んでみても扉は開かないのです。そんなときは一度、その問題を頭から外して、一息ついて発想を切り替えてください。柔軟な発想で問題の全体像を見渡した時に、思わぬところに出口の扉が隠れていることは良くあります。

 

私は商売をされている方からしばしば相談を受けます。自営の方からの仕事の相談は、そのほとんどは“売り上げを上げるためにはどうしたらよいか”というものになります。売上が上がらなければお店はつぶれてしまいます。それだけに皆さん、必死になって売り上げアップの方法を考えます。しかしこのとき、考えれば考えるほどに頭が硬直化して、問題の全体像が見えなくなっていることがよくあります。特に過去に今までのやり方で上手くいっていた経験を持っている人は、そのやり方にこだわります。

「うちはこのやり方で30年間、やってきましたから」

そのように言われる経営者の方は時々います。確かに30年もの長い間、従業員を抱えて、商売を持続することは並大抵ではできません。それは十分に誇れることだと思います。それができた理由は、“お客様に支えられてきたから”です。

 

ただ、世の中もお客様も時代と共に変化していきます。30年前はお客様を引き付けていた魅力的な商材もやり方も、今を生きているお客様が同じように感じるとは限りません。お客様のニーズに合わない商売は、おのずと時代に淘汰されます。つまり、商売もただ、伝統を守り、それを墨守するだけでなく、伝統を守りながらも、時代の変化に合わせて改善していかなければなりません。

 

以前、出張鑑定で静岡県の浜松市に行ったとき、少し驚いたことがありました。仕事は思ったよりも早く終わりましたので、私はスタッフに何かお土産を買って帰ろうと思い、手ごろなものを探していました。浜松と言えば、浮かんでくるのは「浜名湖のうなぎ」と「餃子」です。私は子供のいるスタッフもいますので、お菓子を買って帰ろうと思い、“うなぎパイ”の春華堂の直営店へ入りました。

 

“うなぎパイ”で有名な春華堂は、1887年に甘納豆の販売からスタートした老舗のお菓子メーカーです。しかし、直営店に入ると、うなぎパイ以外にも、カステラやバームクーヘンやみそまん、うなぎサブレなど、数多くの商品が開発されて販売されていたのです。さらに肝心の“うなぎパイ”も、昔からあった定番のうなぎパイ以外にも、新しいタイプのものが売られていました。(2)へ続く。