物事を前向きに考えること。自分の周りで起きた出来事をいつも肯定的に捉えて行動することはとても良いことです。未来は行動によって作られます。行動は思考によって作られますから、プラス思考で物事を考えることによって、行動はおのずとポジティブになります。その結果、未来も良い未来になっていくわけです。このことは皆さんもよくご存じのことと思います。しかし、プラス思考も時と場合を考えないと、却って自分を苦しめたり、追い込んだりして、ネガティブな結果を招いてしまうこともあります。
先日、私に相談した女性は、バリバリと仕事をこなしているいわゆる“キャリアウーマン”です。会社では管理職に就いていて、チームリーダーとして常に大きなプロジェクトを抱えて、部下を引っ張っています。彼女はプラス思考が良い未来を作ることをよく理解しています。そのためどのような状況にあっても常に物事を肯定的に考えて、プラス思考で生きてきました。その結果が今の彼女の評価や立場を作り上げてきました。
しかし、今から半年ぐらい前に、彼女の心身を傷つけて不安にさせる出来事が立て続けに起こりました。一つは5年間お付き合いしてきた彼から別れを告げられたことです。その彼とは結婚の約束もしていました。同じように仕事を頑張っている彼は、彼女に仕事を辞めてもらい専業主婦として子育てをして、暖かい家庭を作っていくことを望んでいました。彼からは度々、結婚の催促を受けていたのですが、仕事が面白くなっていた彼女は、そのたびに結婚の時期を延ばし続けていました。そして、とうとうしびれを切らした彼は、人生観の違いを理由に別々の人生を生きていくことにしたのです。
これは彼女にとっては突然の出来事でした。彼女は、いずれ仕事が一区切りついたら彼と一緒に生きていく人生を思い描いていました。彼との別れは彼女の思い描いていた将来を根底から変えてしまったのです。
ちょうどそのころに、彼女のお父さんが“血管性認知症”という病気を発症したのです。脳の血管が詰まったり(=脳梗塞)、破れたり(=脳出血)すると、その血管が担っていた部分の脳の神経細胞が障害を受けます。脳は血管によって酸素や栄養分を提供されて活動しているからです。この病気のために、お父さんは手足の麻痺やしびれ、そして感覚障害といった神経症状が出てしまったのです。この病気では、新たに脳血管が詰まったり破れたりするたびに、段階的に症状が悪化していきます。一度、失われた神経細胞は元に戻すことはできないのです。したがって新たに脳血管が詰まったり破れたりしないように、血圧や糖尿病や脂質異常症を治療していくしかありません。状況次第では介護をしなければ生活していくことができなくなります。
彼女は倒れたお父さんの看病に病院に駆けつけました。その日から何日も仕事を続けながらお父さんの看病も続けていました。また、仕事や看病が終わった後には、今後はお父さんの介護を家族でどのように分担していくのかを家族みんなで話し合いました。そして、介護施設やデイサービスや介護保険について調べていきました。そんな毎日が続いてクタクタになっていた彼女はとうとう仕事で大きなミスを犯してしまいました。大切なクライアントとの仕事で普段ならあり得ないようなミスを連発してしまったのです。
彼女は上司を伴ってすぐにその会社へ謝罪へ出向きました。クライアントとの契約は解除されずに済みましたが、彼女の信用は失われました。彼女はその大きなプロジェクトから外されてしまったのです。(2)へ続く。