私が出張鑑定でよくうかがう家があります。その家の玄関には30号サイズの油絵がかけられています。そこには幼稚園生ぐらいのお兄ちゃんと思われる男の子と妹と思われる女の子が自然の中で手をつないで遊んでいる様子が描かれています。お兄ちゃんはまだ小さいので頭が大きくて肩が小さくて痩せています。妹は顔は小顔で体も小さいかわいい女の子です。そしてその兄弟の傍らには白い犬がいてこの兄弟とじゃれ合っています。そんな微笑ましい油絵です。
先日、うかがった際にこの絵の話になりました。それは約2か月前に見た絵と明らかに違っていたからです。
「この前、来た時と玄関の絵が替わりましたね、そういえば時々絵が替わっているように思うのですが?」
私の質問にこの家の奥さんが笑顔で答えました。
「主人の母親が画家なんです。主人の実家には300号を越えるような大きな油絵も飾られています。この絵は義母が描いたもので6枚で1セットになっています。冬の雪景色や真夏の海岸や秋の紅葉など、四季の中に男の子と女の子と白い犬が描かれています。とてもかわいいですよね」
私はうなずきながら尋ねました。
「そういえば息子さんと娘さんはいくつになりましたか?」
「もう25歳と23歳です。二人とも毎日忙しく働いています」
私はこの家にはもう20年近くは通っています。お子さんの成長もずっと見届けてきました。小さい頃から部活や受験や就職の相談などに答えてきたのです。
「そういえばこの絵の中の男の子と女の子は、小さい頃のお子さんたちに似ていますよね」
私は、何気なく尋ねました。すると
「よく言われるんです。しかも、絵の中の犬にそっくりの白のシーズーも子供たちが小さかったころにこの家で飼っていたのです」
私は思わず聞き返しました。
「それでは義母さんがお子さんや犬を見て描かれたのですか?」
すると奥さんは
「いいえ、これらの絵は私が主人と結婚して間もないころに義母からいただきました。そのときは、まだ、子供は生まれていませんし、犬も飼っていませんでした。ただ、絵に描かれている子供たちや犬がとてもかわいかったので、喜んで頂戴したのです」
「すると義母さんは、この家に男の子と女の子が生まれてくることも白い犬を飼い始めることも分からない中でこの絵を描いていたのですね」
私は不思議に思い奥さんに尋ねました。
「そういうことになります。義母はもうかなり前に亡くなりましたので、もう尋ねることはできません。しかし、心のどこかで将来、自分の息子がこんな家庭を築くことを感じていたのかもしれません。シュンさん、そんなことってありますよね?」
私は逆に尋ねられました。
「十分にあることだと思います。芸術家は一般の人よりも感性の鋭い方は多いです。今、目に見えない未来でも、自分の息子にそんな将来を感じて、描いていたのではないでしょうか」
今の自分にはその理由が分からなかったり、その認識が持てないことがあります。それが後になって符合するようなケースはしばしば起こります。(2)へ続く。