彼女は部屋の中で度々起こる不思議な現象に不安は感じたものの、自分の声に反応して自体が収束していくことに興味が膨らんでいきました。それは何よりも自分の心身に何ら危害や悪影響が出ていないから思えることでした。ただ、この頃から事態は徐々に変化していきました。

 

たとえば夜、居間で家族でテレビを見ていた後に、そろそろ寝ようと思って自分の部屋に入りました。すると部屋の中にお線香の匂いが充満しているのです。不思議に思った彼女は自分の両親を部屋に呼びました。すると彼女だけでなく彼女の両親もお線香の匂いを感じるのです。それでも霊的な問題に疎い彼女の父親は

「何だろうねえ、お盆が近いから祖母ちゃんでも帰ってきたんじゃないか」

そう言って気にも留めません。

 

それからしばらくすると、同じように室内にお香の匂いが溢れていたこともありました。ただ、お線香の匂いもお香の匂いも決して不快なものではありません。すると彼女は“何か良いものに導かれているのではないか”と考えて、自ら部屋の中でお線香やお香を焚くようにしました。ある時は部屋の中にカレーの匂いが充満していたこともありました。すると彼女は家の台所でカレーを作り、それを部屋に持って来て食べたのです。

 

彼女は何か目に見えないものとやり取りをしていることをむしろ楽しんでいました。しかし、私から見ると、これはやってはいけない最悪の行動なのです。目に見えない何かは、明らかに不浄霊です。仮に良い霊であれば、亡くなった後はあの世へ上がって成仏します。ですから10年以上も現世にとどまることはありません。彼女のやっていることは、不浄霊の誘いに乗って、不浄霊と交信していることになります。そうやって何度も不浄霊と交信するうちに、その霊とは益々つながりやすくなってしまいます。そしてガッチリとつながれるようになったところで不浄霊は馬脚を現します。彼女を弄んだり、心身に危害を加えたり、自殺や事故へ誘い込むこともあります。

 

目の見えない琵琶法師の“芳一”が、平家の怨霊に誘われて、平家一門が推戴している安徳天皇の墓前で毎夜、琵琶を弾き始めました。最初のうちは耳に聞こえる周囲の反応は上々で、芳一も満足していました。しかし、やがて演奏を聴くだけでは飽き足りなくなった怨霊たちに、芳一は殺されそうになったのです。“耳なし芳一”の話と同じです。

 

彼女の場合もやがて状況は変わってきました。廊下に人の気配を感じると部屋の中の照明が突然消えたり、天井から吊り下げられている照明器具が大きく揺れて恐怖を感じるようになりました。そして布団に入ると金縛りに遭うようになり、体の上に乗ってきたり、体を触られたり、首に息を吹きかけられたりしたのです。足首を掴まれて、両足を広げられたり、布団の外まで引っ張られたりしました。そんな時は、朝起きて足首を見ると、大きな手で握られた跡がしっかりと残っていました。ここまで来てさすがに堪えられなくなって、人づてに私に相談してきたのです。

 

私がこの家を訪れると、この家の土地に大きな因縁が残されていました。そのため彼女は小さな時からこの土地に棲む不浄霊の影響は受けていました。それが大人になって何度も不浄霊とつながっているうちに、その影響がさらに強く出るようになっていったのです。

 

私は家の中を除霊して、因縁のある不浄霊をすべて祓いました。それから家の敷地に結界を張って、再び何かの悪影響を受けないようにブロックしました。その結果、この家の中で起こっていた怪現象はピタリと収まったのです。