先日、私に相談した女性は、地方都市の木造平屋建ての家に住んでいます。ここは彼女の実家で、家の築年数は50年ぐらいになります。彼女は子供のころからこの家で暮らしています。玄関から続く廊下の左側には、8畳ぐらいの彼女の部屋があります。入口のドアは、ドアノブを回して開閉します。つまり、閉められたドアは、ドアノブを回さない限りは開くことは無いのです。

 

ところが彼女によると、子供のころから寝るときには閉められていたドアが、朝起きると開いていることが時々あったと言います。最初は寝ているときに、両親が心配して様子を見に来ているのかと思いました。しかし、もし両親が来ているのなら、部屋を出るときにドアを開けっぱなしにはしていかないはずです。このことは子供心に不思議に感じていましたが、特に自分に何かの危害が加えられるわけでもありません。両親に訊いても

「家の建付けが悪いんだろう」

と特に一向に気にする様子もありません。ですから成長するにしたがって、こんな出来事にもいつしか慣れていました。

 

しかし、10年ぐらい前から自分の部屋の中で、夜寝る前に時々、人の気配を感じるようになりました。木造住宅の廊下は、人が歩くとミシッ、ミシッと音がします。布団に入っている中で、その足音や衣擦れ(きぬずれ)の音を聞くようになったのです。そして廊下でこの音を聞いた後、室内の電気を消して眠りに入ろうとすると、しばしば部屋の入り口のドアが“キー”っと音を立てて開きます。それは人一人が通れる分だけ、ゆっくりと開くのです。

 

ドアが開くことには子供のころから慣れていましたが、人の気配を感じるようになってからは、このことが妙に気になるようになっていました。そして、ドアが開くたびに、布団から抜け出してドアを閉めてから眠りに入ります。最初、彼女はこの現象に大きな恐怖は感じていませんでした。ただ、半分眠りについた後に、起きてドアを締めに行くことを非常に煩わしく思っていました。こんなことが続いたある日、イライラしていた彼女は、いつものようにドアがゆっくりと開いたあと、怒りに任せて怒鳴りつけたのです。

「人の部屋に入る時、出るとき、ドアぐらいは自分で締めていけ!」

するとその瞬間、ドアが“バーン”と音を立てて、思い切り閉まったのです。

 

彼女はドアの閉まる音にびっくりして目を見開きました。しかし、室内に特に変わった様子はありません。自分の心身にも異常はありません。そこで彼女はホッとして眠りにつきました。それからしばらくすると、今までと同じように人の気配がしてドアが開いていることが何度か発生しました。そして彼女はそのたびごとに、

「ドアを締めろ!」

と怒鳴りました。すると毎回ではありませんが、時々、ドアは閉まったのです。

 

それから彼女の部屋では不思議な現象が時々起こるようになっていきました。テーブルの上に置いた鏡や化粧品、写真立ての位置が朝起きると微妙にずれているのです。いつも置いてあるものの位置が少しでもずれることは、彼女にとってとても不快なことでした。そこで彼女は夜寝る前にもう一度、大声で叫びました。

「人の部屋のものを勝手に動かすんじゃない!」

すると、その日から部屋に置いてあるものが朝になって微妙に動いいていることは無くなりました。(2)へ続く。