他にも受験生を抱えているお母さんから相談を受けました。
「うちは母子家庭でお金が無いので、学校は休校ですが、息子を塾へ通わせる余裕もありません。子供は毎日勉強しているようですが大丈夫でしょうか」
そう質問してきました。私は送信してきた息子さんの画像を確認して同調しました。
するとそのお子さんはアルバイトで貯めたお小遣いで、本屋へ行って参考書や問題集を買っています。足りない分は、自分の志望校へ合格した先輩に頼んで、受験勉強で使ったテキストや問題集を手に入れていました。勉強で分からないところがあれば、インターネットの無料で勉強を教えてくれるサイトを利用して学んでいます。あやふやなところは、学校の先生や先輩に質問して納得しています。そして学校の図書館に並んでいる赤本(=志望校の過去問)を借りて、自分なりに模擬試験も行っています。彼は塾の先生に教わることはできませんが、自分なりに、学力を上げるための方法を考えて実行しています。そしてその方法も間違ってはいませんでした。
また、学校の先生も先輩も彼を一生懸命に応援しています。苦しい環境の中でも決してあきらめずに、言い訳をせずに頑張っている若者がいたら、皆さんはどう思いますか?ふつうは何か自分にできることがあれば、協力してあげようと思います。人の気持ちとはそうしたものです。文系の先輩は、彼の理系の質問に答えるために、わざわざ理系の友人を連れてきて、彼の質問に答えてもらっています。それはほとんど専属の家庭教師がついているようなものです。しかもわずか1~2年前に受験した先輩ですから、今の大学受験の状況を誰よりも知っている最高の先生になります。予備校で偉そうにしている先生でも、実際に大学受験を経験したのは、20年~30年前になります。志望校の判定基準も入試の傾向も毎年変化していますから、指導経験は少なくても、1~2年前の受験経験者の方が役に立つことも多くあるのです。私は息子さんのひたむきな姿勢やそれを支えている暖かい気持ちを持った大人たちを観て、必ず希望の国立大学へ合格すると確信しました。
勉強は優秀な学校や優秀な先生に教わるから伸びるわけではありません。もちろん優秀な先生は、効率よく学習効果を上げる方法を良く知っています。しかし、そうであったとしても、自分自身が集中力を持って勉強するから学力が付いていくのです。よく、お子さんを評判の良い学習塾へ入れたことで安心してしまう親子がいます。しかし、どれだけ良い学習塾へ入っても自分自身で明確な目的意識を持って、正しいプロセスで勉強していかなければ学力は身に付きません。それに比べれば、場所や環境の問題は重要ではありません。
私はお母さんに伝えました。
「お母さん、息子さんの勉強は大丈夫です。しっかりと学力をつけています。ただ、模擬試験だけは、2か月に1度は受けさせてあげてください」
模擬試験は今の自分の立ち位置を確認して、今の自分に足りないところを明確にするために必要です。昔は“Plan-do-see”と言いました。計画を立てて実行してチェックすることです。今はよくPDCAと言います。Plan –do-check-act、つまり、計画を立てて、実行して、確認して、また行動することです。効率よく力を付けていくためには、ただ、がむしゃらに勉強するだけでなく、時々立ち止まって今の状況を確認すること。そして、必要があれば軌道修正していくことが必要になります。
私はこの二人の受験生を観て“今どきの若者は、たいしたものだ”と大いに感心しました。自分に与えられた環境の中で、言い訳をせずに最善を尽くして目標達成へ向けて進む。私自身、とても良い刺激を与えてもらいました。(3)へ続く。