他にも行方不明者の方を捜索して山中に迷い込んでしまい、危うく帰れなくなりそうになったことがあります。私は毎年、何人か行方不明の方の捜索を依頼されます。私に依頼してくるケースでは、手掛かりになるものはまずありません。あれば探偵へ依頼するはずです。それでも依頼者の半数ぐらいは発見しています。私は行方不明者のご家族から行方不明者の愛用品を借りて、そこに残る霊的な波長を頭に刻み込みます。そして、警察犬が匂いを追いかけるように、行方不明者の波長を頭に描いた地図の中で追っていきます。

 

つまり、私が行方不明者を探すときは、その人が今いる場所が、ズバッと頭にひらめくのではなく、その人が家を出てから辿った道のりを同じように追っていくことになります。

 

行方不明者と一口に言っても、家族との縁を切って第2の人生をやり直そうとする人もいれば、死に場所を探してさまよう人もいます。今回のケースでは後者に該当します。まだ、20代後半の青年男性は、神奈川県内の職場から突然いなくなり、そのまま行方不明になりました。私は彼の足取りを追って、神奈川県から静岡県、そして東京から山梨へと移動しました。そして山梨県では、甲府市から南アルプス市に入り、北岳へ向かったのです。

 

私は北岳の麓まで行って彼の足取りを追いかけました。彼は深い山の中へどんどん入り込んでいきます。私は彼の波長を必死で追いかけるあまり、気が付くと道のない山中まで入り込んでいました。当たりの景色はどちらを見ても山と木々しか見えません。これでは方向がつかめません。太陽が出ているうちは、太陽の位置である程度の方向は判断できます。しかし、日もだんだん限ってきた夕方になり、私はあわてて自分の帰り道を探しました。そして持参した方位磁石を取り出しました。しかし、ここで予期しないことが起こりました。本来なら北を指さなければいけない磁石のN極が明らかに反対の南を向いています。傾きかけた太陽の位置から判断して方位磁石が正常に作動していないのです。これはあり得ないことです。

 

方位磁石のN極が北を指すのは、地球全体が磁石のようになっていて、北極の近くには磁石のS極に相当する磁北極があるからです。地球全体の磁気=地磁気はさまざまな要因で変化しますし、“ポールシフト”と言われるS極とN極の逆転現象も数十万年に1度の割合で起こっています。つまり、地球単位で磁気が変動しない限りは、方位磁石のN極が南を指すことはあり得ないのです。

 

自殺者の多い、富士山の麓の青木ヶ原樹海では、富士山の噴火によって堆積された溶岩によって磁気が狂っていると言われています。それは溶岩のほとんどを占める“玄武岩”は“磁鉄鉱”という磁気を含んだ鉱石でできているからです。その影響で磁石が狂ってしまい、樹海から脱出できなくなるという話ですが、これはまったくのデタラメです。方位磁石を磁鉄鉱にくっつければ方位がわずかに狂う可能性はありますが、方位を示す針がクルクル回り出すとか、方位が分からなくなるほど、強く影響を受けるレベルではありません。私は実際に行方不明者の捜索で青木ヶ原樹海に何度も入りましたが、方位磁石は正常に作動していました。

 

それが今、北岳の麓で私の持ってきた方位磁石は明らかに誤作動しているのです。そしてついには私の不安をあおるように、方位を示す針が、クルクルと回りだしたのです。(3)へ続く。