“パラレルワールド”とは、現実にある世界(時空)から分岐してそれと並行して存在する別の世界(時空)のことを言います。SFの世界や映画やドラマでもしばしばこのテーマは取り上げられてきました。主人公が何かのきっかけで、過去や未来、また別の世界へタイムスリップしてしまう話を皆さんもたくさん見てきたと思います。ただ、パラレルワールドは、決して映画や小説の世界にとどまりません。理論物理学の世界でもこれまでに何度も真剣な議論がなされてきたのです。
私はそれを“パラレルワールド”と呼んでよいのかどうかは分かりませんが、どうしても抜け出すことのできない不思議な世界に迷い込んだことが何度もあります。
以前、このブログで車で目的地へ行くために設定したカーナビとポータブルナビが、どちらも見当違いの方向へ誘導していて、最後はたまたま車に積んでいた地図を見て辿り着いたことをお話ししました。
他にも予備校の講師時代に、夏合宿の下見にスキー場へ行って、近道をしようとして山の中に入り、遭難しかけたこともお伝えしました。このときは迂回して通っている車の通り道を、山を越えることでショートカットしようとして、山の中へ入りました。最初、歩いていた小道はどんどん狭くなり、最後は道が無くなり、背丈ほどの藪の中に迷い込んでしまいました。周囲に家は一軒もなく大声を出しても声は届きません。辺りはやがて真っ暗になり、チョコレート1枚持っていない私と同僚は完全に遭難しかけました。暗闇の中で進む方向すらわからなくなっていた時、山の中にともる灯りがいくつも目に飛び込んできました。集落があるのかと思い、灯りを目指して進んでいるうちに私たちは山頂まで出ることができました。山頂から私たちは山の裏側のゲレンデへ抜けて、宿舎へ辿り着きました。翌日、宿舎のスタッフに確認したところ、私たちが見た灯りの付近は、深い山の中で家など一軒もなく、人が入り込めるような場所ではありませんでした。
他にもカーナビに誘導されて山道を走っていた時に、狭い脇道に入り込んでしまい、ガードレールのない崖沿いの道を何度も周回させられたこともあります。私は夜の暗闇の中、早く広い道へ出ようと必死で車を走らせました。崖から下は数十メートルの高さの断崖になっています。ハンドル操作を誤れば確実に死にます。しかし、冷や汗を流しながら、どれだけ車を走らせても、元来た場所に戻ってしまいます。
私がカーナビをあきらめて、自分の勘で出口を探そうと思った時、来るはずのない対向車のヘッドライトが近づいてきました。私はこのとき、この崖沿いの狭い小道を何周も走りましたから、すれ違う広さのないこの道に対向車が走ってくることはあり得ないと思いました。それでも幅の広い場所を選んで私は車を止めました。私が止めた車の横を対向車はゆっくりと通りました。運転席を見ると、白髪の男性が運転席に座っていました。車もかなり古いものでしたが、老人の服装も明らかに今の時代のものではありません。私は自分の車の窓を開けて大声で尋ねました。
「すみません、広い道へ出たいのですが、どうしたら抜けられますか?」
すると老人は私に一瞥をくれることもなく黙って前を向いたまま、静かにうなずきました。そのとき口角がわずかに上がったのを覚えています。そしてゆっくりと車は通り過ぎていきました。
私はこの老人が生きている人間でないことはすぐにわかりました。ただ、対向車が走ってきたのだから、このまま進んでみようと思い、もう一度、車を前進させました。するとしばらくして今までのことが嘘のように、広い県道に抜け出すことができました。そして私には一昼夜にも思える長い時間でしたが、時計を見ると私が脇道に迷い込んでから時間はまったく進んでいませんでした。そして地図で確認しましたが、この辺りに車が走れる道もありませんでした。(2)へ続く。