先日、たまたま電車に乗っていた時にちょっと考えさせられる光景を目にしました。私の向かいには若いお母さんが赤ちゃんを“前抱っこ”して座席に座っています。座席は埋まっていましたが、それほど混雑している状況ではありません。若いお母さんの隣には、お婆さんが座っています。お婆さんは最初は黙っていましたが、お母さんのお腹に抱えられた赤ちゃんが気になるようでお母さんに話しかけてきました。

「かわいいわねえ、男の子?年はいくつ?」

若いお母さんは笑顔で答えていました。お婆さんも好意的に話をしていたのですが、途中からだんだん雲行きが怪しくなってきました。子育てに関するお婆さんの考え方を若いお母さんに押し付けてきたのです。

「あなた、赤ちゃんは背中に背負った方が良いのよ。前に抱えていたら転んだ時に赤ちゃんをつぶしちゃうでしょ。そういう危険もちゃんと考えなさいよ」

最後はまるで自分のお嫁さんを諭すように説教口調になっていきました。そしてついに若いお母さんは赤ちゃんを前抱っこしたまま、黙って立ち上がると不愉快そうに席を立って隣の車両へ移動しました。そして周囲には嫌な空気感が残りました。

 

以前、私に相談した営業マンが、昔の失敗談を私に話しました。その営業マンがお客様と営業所で商談中に子猫が迷い込んできたのです。ミーミーと鳴きながら近寄ってきた子猫を営業マンは何気なく撫でました。

「かわいいですよね、子猫。私も猫は大好きなんです」

猫好きの営業マンはお客様もそうだと勝手に思い込んでしまい、猫の話を続けてコミュニケーションを図ろうとしました。話をしている間、お客様は猫を撫でた営業マンの手から視線を離しませんでした。そしてその手でコーヒーカップを口元に運んでコーヒーをすする営業マンを見る目は不快感にあふれていました。会話が途切れてしばらくたってからお客様は呟きました。

「私、猫アレルギーで、猫は大嫌いなんです」

そういってお客様は席を立たれたそうです。

 

居酒屋で出されためざしやししゃもの頭を残して食べる人がいます。すると

「そこがおいしいのに何で残すの?」

という人もよくいます。それが

「何で残すの?」

ならまだ良いのですが、中には

「どうして食べないの!食べなさい」

と命令口調になる人がいます。私の知り合いで頭が食べられないという人は、それが嫌で、めざしやいわしは注文しなくなったと言いました。

 

自分にとっての正義が相手にも通用するわけではありません。ましてや好みは人それぞれですから、自分の好みを相手に強制できるものでもありません。そんなことは大人なら誰でもわかっていると思うのですが、油断をするとつい我が出てしまい、人間関係を壊してしまうことがあります。

 

そういえば、昔、私がサラリーマンをしていたころ、オフィスのエアコンの温度を上げるか下げるかで中年の部長と先輩女性社員でよく意地を張り合っていました。それもオフィスの空気が悪くなるくらいに嫌な感じで口論を始めるのです。そして決着はしばしば私の判定にゆだねられました。私は自分がこの場所で生き残っていくために9対1の割合で、先輩女性社員の味方をしました。