自分に入ってくる情報はそれが多ければ良いというものではありません。必要な量の情報が必要な時に入ってくるのがベストです。必要以上の情報は却って自分を混乱させたり、迷わせることになります。その結果、問題の本質から外れたことばかりに注意が注がれてしまい、問題解決の方法を誤らせることにもなります。

 

先日、私に相談した男性は、個人投資家として何十年間も生計を立てています。彼は株や債券、先物取引やFXなど、さまざまなものに投資しています。大きなお金を動かしていますから、自分なりにたくさんの情報を集めています。具体的には対象国の雇用統計や消費者物価指数、産業別の売上高や利益の変化に常に目を光らせています。また、世界のマーケットは24時間動いていますから、東京市場が動き出す前には、ロンドンやニューヨーク市場の動きは毎日、必ず把握しています。

 

そういった経済指標を元に、テクニカル指標といわれる移動平均線やボリンジャーバンドなどを駆使して、チャートの動きを読み取っています。その結果、今は買いに入る時期なのか、売りに入る時期なのかを判断しています。

 

一昔前であればこれら投資をする上で手助けとなる情報を手に入れるのも容易ではありませんでした。しかし、今は家庭の主婦でもデイトレーダーとして投資をする人が増えてきました。そのため窓口となる証券会社は、たくさんの情報を手軽に入手できるように公開しています。

 

一見すると入手できる情報量が増えれば、それだけ精度が高まって勝率が上がるように思います。しかし、この方に言わせると入ってくる情報が増えるようになってから、むしろ勝率は下がってきたというのです。情報量が少なかったころは、経済指標にもテクニカル指標にも頼らずに、純粋に価格のチャートの値動きを自分なりに判断して買いに入るのか売りに入るのかを決めていました。その頃に稼いでいた人が、情報量が増えたことで勝率が下がる理由は明確です。

 

経済指標にしてもテクニカル指標にしてもそれが相場の動きに必ずしも直結するとは限りません。経済指標を見れば確実に上がると思われる時に、相場が下がることはしばしばあります。株式市場でも債券市場でもFXでも、その値動きを決めるものは経済的な指標だけでなく、政治情勢や社会情勢などが複雑に絡み合っています。大口投資家の思惑によって相場が左右されることもあります。ですからどれだけたくさんの情報を入手したとしても、それだけで相場の値動きを判断することはそもそも無理があります。

 

また、仮に的中精度が50%の指標があるとします。その指標を2つ、3つと組み合わせて判断することは、2分の1×2分の1×2分の1になりますから、的中精度は8分の1=12・5%に下がります。つまり情報量が増えることは、その分、勝率が上がるように思いますが、実は勝率は下がるのです。

 

あなたが結婚を考えているときにお見合いの話が来たとします。釣書には相手の方の氏名・年齢・住所・勤務先・学歴・職歴・資格・年収・趣味など、さまざまなデータが書かれています。相手のデータが多ければ多いほど気持ちは安心します。でも、本当に必要なのは情報の量ではありません。そういった文字にすることのできないその人の優しさや誠実さ、そして相手を思う愛情や寛容さの方が、幸せな結婚生活を続けていく上では重要になります。

 

入手できる情報が足りないと感じるとき、人はどうしても不安になります。しかし、現代のように情報過多の時代では、たくさんの情報の中から本当に有効な情報を取捨選択する目を持つことが必要になります。(2)へ続く。