このような事例は数多くあります。たとえば何か買い物をすれば、いつも後から文句を言ってくる人がいます。“クレーマー”です。チェーン店の本部の顧客データや通信販売の信用調査にクレーマーとして名前を控えられているような人物でも、いつも難癖をつけてトラブルを引き起こしているわけではないのです。

 

仮に対応した店員がクレーマーが喜ぶような絶好のミスを犯して意気揚々とお店に怒鳴り込んできても、10分もしないうちに静かに退散させてしまう店長がいるのです。そうなるとそのクレーマーはもう二度とそのお店にクレームは付けません。お店を敬遠して行かなくなるのではなく、他のお客さんと同様に静かに買い物をして引き上げていきます。それはクレーマーが店長に恐れをなしておとなしくしているのではなく、店長がこのお客さんがクレーマーに変身するスイッチを押さないからです。クレーマーからすれば、どれだけクレームを付けたいと思っても、店長がその隙を与えてこないので、クレーマーになるきっかけが無いのです。

 

どこの繁華街でも酒癖が悪くて、居酒屋やスナックを出入り禁止になっている酔っぱらいはいます。そんなお客さんとどこかのお店で遭遇すれば、“きっとまた何か揉めるに違いない”と考えて、トラブルに巻き込まれたくないお客さんは早々にお店を引き上げます。しかし、そのお客さんが何時間お酒を飲んでいても、お店のママやマスターと楽しく話をしていることがあります。時には笑顔さえ見せて、トラブルの兆候さえまったく見せないのです。そして、普通に代金を支払って帰っていくのです。“何か変わったのか”そう思って様子を見ると、案の定、次に入ったお店から怒鳴り声をあげてクダを巻いて出てくるのです。こういったこともよくあります。

 

人に絡んだり喧嘩ばかり吹っ掛けているようなどうしようもない人間に対して、腕力やお金や力で相手を抑え込んで黙らせている人がいます。しかし、本当に賢い人は、相手が因縁を付けようとしても、その隙を与えずに、喧嘩のきっかけを作らせないばかりか、さらに気が付けば自分のファンにして取り込んでしまうのです。感性の鋭い人になると、その人の行動を決める10個のスイッチのうち、9個が地雷だとしても、毎回1個の当たりのボタンを的確に押して良い人間関係に作り変えてしまいます。

 

今、さまざまな人間関係で悩んでいる方は、あなたと相性の悪い相手を冷静に、もう一度観察してみてください。気が合わない人だから自分を守るために避けて通るという対応はあります。しかし、あなたの頭の中に相手の行動を決めているスイッチはいくつもあって、それを自分が選んで押しているという認識を持つことが、あなたが相手の良いスイッチを押せるようになることのスタートになります。

 

あなたと馬が合わなくて、これまで避けていた嫌な相手に対して、自分がその行動を引き出しているという認識を持つことで、相手に対する見方や対応は変わります。その結果、相手があなたに見せる対応も変わっていくのです。嫌な相手に嫌悪感を抱いたり、不平不満を口にする前に、相手の良いスイッチを探す実験を実行してみてください。その結果、相手の良い面を引き出すスイッチを見つけ出すことができれば、今まで苦手だった人があなたの味方になることもあるのです。