先日、私に相談された方は、離婚するのかどうかで夫ともめている女性でした。話を聞けば聞くほど、この女性がかわいそうになるほど、ひどい夫です。夫の言動には思いやりのかけらもなく、気に入らないことがあれば夫はすぐに実家へ帰ります。そこでは義母や義姉と一緒に妻の悪口が始まります。まだ、乳児の子供がいて、妻は今現在も第2子を妊娠しています。妻は子育てと妊娠からくる不安やストレスと、毎日一人で戦っています。妻は肉体的にも精神的にも限界になっています。その状態で妻と乳飲み子を家に残したまま、何か月間も実家で気ままに暮らしている男の神経にはあきれるばかりです。この方は不安や迷いから私に何度も電話をしてきます。私はそのたびに無責任な夫に腹を立て、この方に最善の道筋を伝えようと必死で未来を観たのです。
夫はこの方に
「早く離婚調停を申し込むように」
と何度も迫っています。喧嘩ばかりだった夫婦生活は、きっとこれからも改善することは望めないので、離婚へ向けた話し合いをしようというのです。
この女性は今は育休を取っていますが、生活能力は十分にあります。仕事はできる方で、今はとても良い環境の会社に勤めています。普通の男性よりも安定してお金は稼いでいます。ですから彼女の周りの友人たちは、ほぼすべてが離婚を勧めています。普通に考えれば誰でもそう思います。
ただ、私はこの方に
「離婚は最終判断で、まだ、やり直せる余地がありますから、可能性がある限りはご主人と上手くやっていくことを考えた方が良い」
と伝えました。
私がそのように答えたのには理由があります。一つはこの夫の実家は資産家で、この女性も経済的には豊かな生活をしています。夫婦関係に何を優先して求めるのかは人によって異なります。ただ、この女性は経済的に豊かな生活を望んでいます。それなら今の夫とは別れない方が彼女の望みが叶うと感じたのです。
そして、もう一つは、私に電話で話すたびに、夫や夫の家族に対する不満や、やりきれない思いを伝えるこの女性に、私は離婚したいという意思を感じることが無かったからです。それは口を開けば
「調停を申し込め」
と妻を責める夫にも私は離婚したいという意思は感じませんでした。
この夫は夫婦喧嘩をした時の逃げ場所として実家を上手く利用しています。実家に戻れば、どれだけひどい妻なのかを母親と姉に語ります。それを聞いた母親と姉は息子(弟)がかわいいので、息子(弟)に同情して責めることはありません。むしろ、息子(弟)を励ましてフォローしてくれます。夫はその居心地の良さを維持するために、実家で妻の悪口を吹聴します。それを聞かされた母と姉は結果として離婚を勧めます。そのようなことを繰り返しているうちに、夫も実家に対して引き下がることができなくなってしまい、「調停を申し込め」と言い出しているのです。
結婚もそうですが、離婚についてもそれを行うには“覚悟”が必要です。私はこの夫からも妻からも、肝心の“覚悟”を感じることがありませんでした。ですから、離婚へ進むよりも、もう一度やり直す道へ進むように促したのです。
お互いの意思による“協議離婚”が成立しない場合、家庭裁判所による“調停離婚”を申し立てることになります。そこで調停離婚が成立しなくても、家庭裁判所の判断で離婚した方が良いと審判されると“審判離婚”が成立します。協議離婚や調停離婚が成立しなくても、離婚を望む場合は、訴訟による“裁判離婚”になります。離婚には今述べた4つの種類があります。
また、調停(夫婦関係調整調停)には、円満な夫婦関係を回復するための調整の場として、“円満解決”を目的とした調停と、離婚へ向けた手続きや問題を話し合う”離婚”を目的として調停があります。この夫は、調停や離婚を声高に叫びながらも円満解決を目的とした夫婦関係調整調停を申し込んだのです。(2)へ続く。