私の知り合いで20代前半からお寺の住職をしている友人がいます。それは元々そのお寺の住職だった父親が若くして亡くなってしまったためです。父親が亡くなった時に僧侶の学校を卒業して僧籍を取っていた知り合いは、お父さんの跡を継いで20代前半にしてそのお寺の住職となったのです。彼の話によると住職の子供が跡を継ぐようなケースは、決して珍しいことではないようです。

 

世間ヘ目を向けても、自動車の単独ブランドとして世界一の年間886万台を売り上げているトヨタ自動車でも現社長の豊田章男さんは創業家である豊田家の出身です。豊田家は、豊田佐吉が愛知県刈谷市に創業した豊田自動織機製作所に始まります。やがて豊田自動織機製作所の中の自動車部門が独立して、トヨタ自動車工業が設立されます。初代社長には佐吉の娘婿である豊田利三郎が就きます。ただ、すぐに佐吉の長男である豊田喜一郎が2代目社長になります。そのあと3代目、4代目社長は豊田家以外の人間が社長になりましたが、5代目社長は、佐吉の甥である豊田英二が社長に就きます。

 

そのあと6代目社長には豊田喜一郎の長男の豊田章一郎が社長になります。そして7代目には章一郎の弟の豊田達郎が社長に就任します。そして、8代目、9代目、10代目の社長に外部の人間が就いた後、2009年から豊田章一郎の長男の豊田章男さんが11代目の社長を勤めています。章男さんは豊田佐吉を初代とするとその長男の豊田喜一郎、さらにその長男の豊田章一郎、そしてその長男になりますので、4世代目の直系社長になります。

 

豊田佐吉は発明特許84件、実用新案35件を持つ天才でした。その長男の豊田喜一郎も東大工学部で機械工学を学んだ優秀な人物です。そしてその長男の豊田章一郎も名古屋大学工学部で機械工学を学んでいます。そして現社長の豊田章男さんも慶応大学法学部を卒業後、アメリカのハプソン大学大学院でMBAを取得しています。また、豊田家の人たちは単に頭脳が優秀だっただけでなく、人間性にも優れていて、その人望の高さから数多くの部下に慕われています。そういう意味では、代々の社長を一族の長男を中心に受け継いできたことは成功だったわけです。

 

元首相、鳩山由紀夫さんの鳩山家でも初代「鳩山和夫」、2代目「鳩山一郎」、3代目「鳩山威一郎」、4代目「鳩山由紀夫」、5代目「鳩山紀一郎」と5代続けて東大に進学しています。ハンマー投げの室伏重信さんは、日本選手権10連覇、アジア大会5連覇の金字塔を打ち立てて、“アジアの鉄人”と呼ばれていました。室伏さんが1984年に出した当時の日本記録75m96は、1998年に長男の室伏広治さんに破られましたが、現在でも日本歴代2位の記録です。そして息子の室伏広治さんは2004年のアテネオリンピック男子ハンマー投げの金メダルを始め、世界選手権でも金・銀・銅メダルを獲得して、父親の才能を完全に受け継いでいます。

 

武家や皇族の跡取りを見ても、基本的には長男が家の跡を継いでいます。民間でも戦前までは家の長男が家督を継いでいました。それでおおよそは上手く回っていたのです。そう考えると能力は遺伝することになりますし、特に子供の中でも長男が優秀だとする考え方は一見正しいようにも思えます。

 

しかし、その一方でスポーツ界でも芸能界でも勉強でも、優秀な能力がその子供に受け継がれていないケースも数多くみられます。逆に“トンビが鷹を生む”ようなことも珍しくありません。それでは能力は遺伝すると考えた方が良いのか。或いは、別の問題だと切り離した方が良いのでしょうか。(2)へ続く。