一方、今年の女子プロゴルフツアーの賞金女王を決定する「LPGAツアーチャンピオンシップ・リコーカップ」ですが、この最終戦を前にして、賞金女王になる可能性のあるのは、その時点で1位の鈴木愛選手、2位の申ジエ選手、3位の渋野日向子に絞られていました。ライバルを一歩リードしている鈴木選手は、2017年に賞金女王を獲得しています。今年はすでに7勝もしている実力者です。(2017年に賞金女王を獲得した年は、年間2勝です)日本で開催されている日本女子プロゴルフツアーですから、韓国人の申選手よりも、鈴木選手や渋野選手が応援されるのは分かります。しかし、実態はマスコミもギャラリーもこぞって渋野選手の応援に回り、ここでもいつの間にか、鈴木選手と申選手は悪役に回っていたのです。

 

渋野選手は昨年、プロテストに合格したばかりの21歳の新人です。昨年から女子プロゴルフツアーに参加していますが、昨年の賞金獲得額は750万円余りで、賞金女王を狙えるような選手ではありませんでした。(750万円の賞金のうち、600万円は7月に行われた「アース・モンダミンカップ」の9番ホールのホールインワン賞の賞金です)その渋野選手は、今年に入って5月に行われた「ワールドレディスチャンピオシップ・サロンパスカップ」でツアー初優勝をすると、海外ツアー初参戦となった8月の「AIG全英女子オープン」でメージャー優勝を飾ったのです。日本人女子選手のメージャー優勝は、1977年に樋口久子さんが「全米女子プロゴルフ選手権」で優勝して以来、47年ぶりの快挙でした。この急成長ぶりにマスコミやゴルフファンは大いに驚きましたが、若くはつらつとしたプレースタイルや愛くるしい笑顔は”スマイルシンデレラ”と呼ばれて、一躍人気者になったのです。

 

この試合の様子を撮影していたカメラマンは「普通はゴルフツアーの撮影では、トーナメントリーダー中心にシャッターを切りますが、会社からは、順位に関わりなく、プレー中も休憩時間も渋野選手を写すように言われている」と話していました。しかもプレーの様子だけではなく、渋野選手の所作や表情を寄せで撮影するように命令されていたのです。マスコミがここまで押している選手ですから、ギャラリーも渋野選手を中心に移動します。渋野選手がパターを打ち終えると、他の選手がまだ打ち終えていなくても、次のホールへ向けて歩き始めるギャラリーがたくさんいました。この状況の中でプレーしている鈴木選手や申選手には相当のプレッシャーがかかっていたと思います。

 

試合は韓国のペ・ソンウ選手が優勝、渋野選手は2位タイ、鈴木選手は5位タイ、申ジエ選手は7位タイで終わりました。その結果、年間トータル1億6千万円を獲得した鈴木選手が賞金女王を獲得して、渋野選手は1億5千2百万円を獲得して、年間2位になりました。この試合が終了すると、一部のマスコミが鈴木選手をたたえる記事を掲載していました。その内容は「目に見えない大きなプレッシャーにつぶされなかった鈴木選手をたたえていたのです。

 

鈴木選手は最終日を前にして、「年間7勝もしていて賞金女王を取れないなんてありえない。これで負けたら恥ずかしい」と、そういって、3日目のプレーが終了した後も、誰よりも遅くまで練習場に残ってパターの練習を繰り返していました。常日頃から”練習量では誰にも負けない”と言う鈴木選手。そのプライドと自信は人並を越えた練習量に裏打ちされていたのです。

 

スポーツの世界はわずか3センチや0・5秒の違いが結果を大きく左右します。その小さな違いは、人智をこえたところに存在しています。目に見えない力に流されずに、結果を残すためには自分の気持ちが流されないだけの強いものを作り上げておく必要があると痛感させられました。(3)へ続く。