昨日はスポーツファンが注目する試合が2つ、国内で行われました。一つは東京オリンピックの男子マラソン代表の最後の一人を決める「福岡国際マラソン」が福岡県の平和台陸上競技場を往復するコースで行われました。もう一つは女子プロゴルフの今年の賞金王を決める「LPGAツアーチャンピオンシップ・リコーカップ」が宮崎県の「宮崎カントリークラブ」で行われました。私は仕事の合間に時々テレビを見ながら状況を確認していました。ただ、この2つの大きな試合を見ながら、どちらの試合にも同じように感じたことがありました。

 

まずはマラソンですが、東京オリンピックの男子マラソンの日本代表枠は3人です。今年の9月15日にMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)という選考レースが行われました。このレースで上位2位までに入った二人は、そのまま日本代表に確定します。残りの一人は、今回の「福岡国際マラソン」、来年3月1日の「東京国際マラソン」、来年3月8日の「びわ湖毎日マラソン」で、日本陸連が設定したタイム(日本記録)を上回り、その中の最上位の選手が代表に決まります。そしてもし、設定記録を上回る選手が出なかったときには、MGCで3位に入った選手が代表に決まります。そもそも陸連の設定タイムが日本記録ですから、設定記録を上回る選手が出てくる可能性は非常に低いのです。そしてMGC3位で、なおかつ現時点で日本記録を持っているのは、大迫傑です。大迫選手からすれば、あえて福岡国際マラソンに参加しなくても、日本記録を誰かが更新しない限りは、自分が代表に選ばれることになります。万が一、「福岡国際マラソン」で誰かが記録を更新した場合は、3月の「東京国際マラソン」か「びわ湖毎日マラソン」で、さらに記録更新を狙えば、まだ代表になれる余地があります。そう考えれば、大迫選手が今回の「福岡国際マラソン」に参加しなかったことは当たり前の判断なのです。

 

そして今回の「福岡国際マラソン」で陸連の設定記録を破れる可能性を最も期待されたのがトヨタ自動車の藤本拓選手でした。テレビ中継をするテレビ朝日では、事前に藤本選手の特集番組まで放送して、この大会を盛り上げました。一方の大迫選手に対しては、「勝負を逃げた」とか「守りに入っている」などど批判する専門家まで出て、いつの間にか藤本選手が良い役で大迫選手が悪役という図式になっていきました。そしてレースが始まっても沿道の皆さんも放送席も藤本選手を大いに応援してレースを盛り上げていたのです。

 

私はこの状況を画面で見ながら、とても違和感を覚えました。現時点で日本記録保持者の大迫選手は、MGCで3位になったとはいえ、日本人選手の中で最も力がある一人であることは間違いありません。そして選考レースという性格を考えれば、「福岡国際マラソン」に参加しないという選択は卑怯でも逃げでもなく当たり前の選択なのです。記録更新に挑んだ藤本選手も立派ですが、だからといって大迫選手を否定するような流れには疑問を感じました。結果的には、前半から記録更新を狙って飛ばしていた藤本選手は、終盤で失速して記録更新には遠く及ばないタイムでゴールしました。そして、3月の「東京国際マラソン」でも「びわ湖毎日マラソン」でも同じように光景がきっと展開するだと思いました。

 

現時点でオリンピック代表に決まっていない藤本選手に対する”判官びいき”や集団心理も働いているのだと思います。でも、相手方の選手も必死で努力を重ねて代表候補になっているのです。そして、こういった理由の不明確な目に見えない力が、結果を左右することもしばしばあるのです。(2)へ続く。