私は彼女に伝えました。
「お友達は、ケンカした後、仲直りができなかったことが、ずっと心残りで、死んでもまだあの世へ上がることができずに現世に留まっていたのです。あなたと生きて再会できなかったことは本当に残念で悔しく思っています。でも今、昔のように二人の心が通じ合えたことを何よりも喜んでいます」
彼女は何も言わずただ、涙を流していました。
「そして今のあなたの姿を見て心から心配しています。自分のことを責めて自分を追い詰めて、あなたの身体や心がボロボロになったことに、お友達も責任を感じています。もし、あなたが逆の立場だったら、今のあなたを見てどう思いますか?自分の事故のせいで責任のないあなたをここまで追い込んでしまったら申し訳ないとは思いませんか?このままではお友達は、ずっとあなたのことが気がかりであの世へ上がることは出来ません。ずっと現世に留まったまま成仏することができなくなってしまいます」
私の言葉を聞いて、彼女は何かを感じ始めていました。
「人間は誰でもいつかは亡くなる運命にあります。肉体の無くなった魂は、肉体を抜けて現世に留まります。そして自分の人生を総括した後、あの世へ上がります。あの世へ上がって輪廻転生をしていずれまた来世へ生まれ変わります。そのサイクルは30年から80年と言われています」
彼女はまだ身じろぎもせずにただ、私の話を聞いています。
「前世で自分の近くにいて人生に影響を与えた人は、来世でも自分の近くに来て来世の人生にも影響を与えます。前世で親子だった二人が今世では兄弟になったり、今世で夫婦だった二人が来世では親友になったりします。つまり、友人が現世に縛られることなくスムーズに来世に上がれば、早ければあなたが生きている間にまた、今世で出会える可能性もあるのです。あなたのひ孫として出会うかもしれませんし、ひ孫の友達として家に訪ねてくるかもしれません。もし、今世で会えなくても、来世ではお互いにまた親友として出会える可能性もあるのです。今、お友達がスムーズにあの世へ上がることを妨げているのはあなた自身なんですよ」
私の話を聞いて彼女の表情に生気が戻ってきました。
「あなたがこの悲しみを乗り越えて、また元気を取り戻してご主人やお子さんと幸せな家庭を作ること。これはあなたもお分かりの通り、お友達が高校生の時になりたかった未来なんです。それを親友のあなたが実現してくれることを誰よりもお友達は望んでいるとは思いませんか?だからあなたがこの悲しい事故に責任を感じているのならなおのこと、あなたは元気を出して幸せな家庭を作っていかなければいけないのです」
彼女は私の言葉に初めてうなずきました。そして私には、この状況を見つめていた友人の顔が初めて笑顔になったことを感じました。
この日からしばらくたって、彼女は30回目の誕生日を迎えました。その日、友人のお墓参りを済ませた彼女は、家族でささやかな誕生会を開きました。大切なご主人とお子さんに囲まれて、お祝いをもらった彼女の顔には久しぶりに笑顔が溢れていました。そしてこの日の夜、彼女はまた友人の夢を見ました。高校生のまま夢の中に現れた友人は、今までとは違って笑顔でこちらを見つめていました。特に何も語ることはありませんでしたが、一瞬動いた唇は
「また会おうね」
そう語ったように思えました。友人は静かに空へ上がり、泡のように消えていきました。
「あなたが元気になってきたことに安心して、やっと成仏していかれたのでしょう」
私がそう告げると彼女は笑顔のまま何度もうなずいていました。