全国各地に設置されているお地蔵さまは、仏教の信仰対象である菩薩の中の一尊のことです。地蔵菩薩は釈迦の入滅後、弥勒菩薩が現世に出現するまでの間、六道のすべての世界に現れて、衆生を救ってくださるありがたい菩薩様です。また、道祖神としての性格も持ち、集落の境界や道の辻や三又路に、石像や石碑として作られ、集落の守り神であり、子供を守る神様として信仰されています。

 

しかし、そんなお地蔵さまも石像の首だけが切り落とされて、巨石の上などに置かれた”首地蔵”と言われるものが、全国にいくつか設置されています。山梨市水口にある首地蔵は、周囲を山に囲まれた県道31号線の道端に、道路にはみ出すように設置されています。大人の背丈ほどもある大きな巨石の上に、石に人の顔を彫り込んだ首が載せられているさまは、一見して不気味に見えます。本来は、ありがたい存在のお地蔵様ですが、この首地蔵を見ればこの場所が何か深い悲しみや因縁を抱えていることは容易に想像できます。

 

山間の狭い道路にせり出すように置かれた首地蔵は、交通の安全を考えても大きな障害になっています。それでもこの首地蔵がここに置かれた理由を調べてみると、やはり悲しい出来事がこの場所で起こっていました。昔、この土地で長雨が続いて地盤が緩んでいた時に、山の上から大きな石が転がり落ちてきて、ここで子守をしていた12歳の女の子を直撃してしまいました。そして、子守をしていた女の子もあやしていた赤ん坊も命を落としてしまったのです。それからこの場所では女の子の泣き声を何人もの村人が耳にするようになりました。

 

そのときに旅の途中でこの村に入り、この噂を聞いた僧侶が、女の子と赤ん坊の供養のために、砥石で石を削って顔を作りました。そして、この場所に残されていた巨石の上に砥石で削った顔を乗せたところ、女の子の泣き声はピタリとやんだと言われています。

 

その後、県道31号線の拡張工事のために、この巨石を移転しようとして、石に穴をあけたところ、作業員が高熱を出して、作業は中断されました。そのあとも交通の障害になっていたために、道路の反対側にこの石を動かしましたが、作業中に不可解なトラブルや事故が発生して、作業員が大けがをしたと言われています。

 

交通の障害になるような場所に不自然に設置されているものは、それを動かすことのできない理由があります。特に注連縄が巻かれたていたり、石碑や石仏の類はそれに触れてはいけません。禁忌を犯す者には必ず、神罰が下ることを皆さんも忘れないでください。