先日、出張鑑定でうかがったお宅には玄関に100号ぐらいの油絵が飾ってありました。人物画で緋色の着物をきた上品なご婦人が一人、描かれていました。この家ではさまざまな霊現象が起こっていました。ラップ音は日常的に発生して、窓を閉めているのに部屋のドアが勝手に開閉する。壁に掛けた物や額がしばしば落ちてしまう。電波時計の時間が一晩で大幅に狂う。深夜に玄関や勝手口に設置したセンサーライトが誰もいないのに点灯する。無人の部屋から人の話し声が聞こえる。朝起きると体に無数の傷や痣ができている等、一つ一つ挙げたらきりがないくらいに不思議な出来事が続いていました。
その中でも特にこのご婦人の絵画では不思議な現象がしばしば起こっています。ご家族によると、夜起きた時にこの絵画を見ると、そこに描かれたご婦人の表情が大きく変化してしていると言います。目を吊り上げてこちらを睨みつけている時があれば、瞳から涙を流している時もあります。口角を上げて不気味に笑っている時もあります。特にひどいのは、深夜にこのご婦人が絵の中を抜け出して家の中を歩いているというのです。
この家は地元の名士でいわゆる旧家です。この家の跡取りであるご夫婦の寝室は2階の廊下越しにあります。ドアには枠の内側に曇りガラスが取り付けてあります。夜、寝室で寝ている時に、1階の階段から2階へ向けて、”ミシッ、ミシッ”と誰かが階段を上がってくる音が聞こえました。それに気づいたご夫婦は恐怖に震えながら、夜は灯りを付けたままの2階の廊下を寝室から凝視しました。すると曇りガラス越しに2階の廊下に緋色の着物がはっきりと確認出来ました。この緋色の着物を着た人物は寝室の前をゆっくりと黙って通り過ぎて行ったと言います。そしてご主人が意を決して、寝室を飛び出して廊下に出るとそこには誰もいなかったのです。曇りガラス越しに見えた緋色の着物が向かった先には、壁があるだけです。ただ、その壁の外には昔からあったという大きな蔵が立っています。その蔵の横には今は固く入り口の閉ざされた井戸があります。
私はこの2階の廊下を歩いた瞬間にさまざまな画像が頭をよぎりました。それらはすべてこの蔵や井戸に関係した忌まわしい出来事です。そして緋色の着物を着た人物は江戸時代から明治時代に生きた方で、ご主人のご先祖に当たります。お名前は過去帳にもはっきりと書かれています。
ご主人は何度か家に神職を呼んでお祓いをしてもらいましたが、この不思議な現象はまったく収まりませんでした。そして気味が悪いので玄関に掛けられた絵画を何度も取り除いて片づけようとしたのですが、絵の留め金が壁にきっちりと食い込んでいて容易に取れなかったそうです。一度は業者を呼んでこの絵を片付けようとしたのですが、簡単に取れるはずの絵がまったく壁から外せず、作業した業者は工具が自分の手に刺さってしまい大けがをしたそうです。そして取り除こうとした日の夜は、決まってこのご婦人は絵画から抜け出して、今までよりも激しく家族の前に現れるのです。(2)へ続く。