人生にはおのずと良い流れのときと、悪い流れの時があります。中には「私の人生は物心ついたときからずっと最悪で、良い時期なんて一度もありません」という方もいます。逆に「私の人生はいつも何かに守られているようにずっと幸せです」と話す人もいます。最悪の人生でも最良の人生でもその中にはおのずと波がありますから、誰の人生の中にも流れの良い時期と流れの悪い時期はあるのです。

 

よく会社の経営者から、「今の自分や会社の流れを教えてほしい」と聴かれることがあります。それは今の流れを知ることによって、攻撃的に攻めの経営をした方が良い時期なのか、慎重に守りの経営をした方が良いのかを判断したいからです。人生の流れは自分では正確に感じ取ることは出来ません。ですからその判断を誤って、慎重に守りの経営をする時期に、商品開発やプロモーション、設備投資などに経費を使いすぎて資金繰りが一気に悪くなってしまっては大変だからです。

 

先日、出張鑑定でお会いした社長は、最近、トラブルが続いていてかなりの不安を抱えていました。社長にお会いした時に最初に言われた言葉は、「私に何か悪いものは憑いていませんか?」というものでした。それだけ数多くのトラブルが続いているということです。このため社長は、計画していた新しい人材を採用する予定を延期して、商品のプロモーション費用も抑えて、流れが良くなるまでは慎重に経営するという判断を下していました。

 

この状況に際して、私が社長に伝えた言葉は、まったくその逆のことでした。

「社長、今は社長も会社も好調の良い波に乗っています。こういう時期は、ブレーキよりもむしろアクセルを踏んで会社の飛躍を図ってください」

この言葉を聞いて社長はかなり驚きました。

「予期せぬトラブルが続いていて、お得意さんは離れ、仕事のできる社員もやめてしまった今の時期が好調なんですか?」

私は自信をもって答えました。

「はい、今は良い流れに入っています」

私は社長に言いました。

「社長、今の状況を冷静に見てください。確かにお得意さんが離れてしまったことも、優秀な社員がやめてしまったことも大きな痛手かもしれません。でも、そのことによってこの会社の資金繰りが悪化したとか、給料が遅延になっているとかそこまで追い込まれていますか?銀行や会計士、監査法人などから経営体質の改善を強く迫られていますか?まったくありませんよね。つまり、トラブルを数多く抱えながらも、会社は大きなダメージも受けずに、それらを乗り切っているのです。それは流れが良いからできることなのです」

私はさらに続けました。

「流れが良い時期とはトラブルがないということではありません。流れが良い時期は渦潮の直径が大きくなったようなものですので、良いことも悪いこともたくさん呼び込んでしまいます。ただ、悪いことをどれだけ呼び込んだとしても、それらは必ず乗り越えることができるのです。ですから一つ一つのトラブルに意識を持って行ってブレーキを踏むのではなく、乗り越えている自分に自信を持って、アクセルを踏み込んだ方が結果として会社が飛躍することにつながるのです。ですから今はピンチではなく、チャンスの時期ととらえてください」

社長の顔は見る見る明るくなって、自信を取り戻していきました。

 

このあと、辞めていった社員が不正を働いていたことが発覚し、離れてしまったお得意さんは、クレーマーでいろいろな会社とトラブルを起こしていたことがわかりました。私はこれからこの会社に新しく入る社員が、いずれ社長の右腕になることを確信して帰りました。