以前、大阪に住んでいる方から、「娘の様子がおかしいので助けてください」とメールをいただきました。メールをいただいたお母さんと一緒に私が一人暮らしのお嬢さんのアパートへ駆けつけると、お嬢さんは完全に憑依された状態で、自分の言動は霊によってコントロールされていました。まず、言葉遣いが現代のものではありません。時代劇でしか聞いたことが無いような昔の言葉を遣っています。さらに一般庶民の言葉ではなく、”花街”で遣う言葉で話しかけてきたのです。私の頭には、江戸時代後期の遊女の姿が浮かんでいました。

 

この遊女の不浄霊は、霊的な波長も年恰好も近いお嬢さんにガッチリと憑依していました。不浄霊は何ら因縁因果や理由が無くても、霊的な波長が近いというだけで、生きている人間に憑依します。また、自分や自分の気になる相手(=愛情の対象でも憎しみの対象でも)に、年恰好が似ていれば、さらに強く憑依してそこから離れようとしません。

 

お母さんはお嬢さんがこのアパートで一人暮らしを始めてから、日に日に様子がおかしくなったと言いました。そして、このアパートやアパートの敷地に何か悪いものが憑いているのではないかと疑っていました。ただ、私は問題の原因がこのアパートにあるとは感じませんでした。

「この近くに昔の遊郭などはありませんか?」

私の質問に、お母さんは「すぐ近くではありませんが、電車で一駅ぐらい移動したところに新町遊郭がありました」

と答えました。新町遊郭は、大阪で唯一、幕府が公認していた遊郭です。駅でいうと本町駅から南西方向へ進んだ一帯です。このお嬢さんは西長堀駅に住んでいましたので、まさに新町遊郭のはずれになります。

私は新町遊郭という言葉を聞いた瞬間に、遊郭から足抜けをしようとした遊女が、遊郭から逃げ出してその町はずれまで来たところで追っ手につかまっている様子が浮かんできました。遊女はひどい折檻を受けて、このアパートのすぐ近くで命を落としていたのです。そしてその苦しみや恨みが重荷になってあの世へ上がることができずに現世に執着していたのです。

 

私はその場でお嬢さんの除霊を始めました。お嬢さんに憑いた不浄霊は激しく抵抗してきましたが、やがて無事に抜けていきました。除霊が終わるとお嬢さんは何事もなかったように穏やかな表情になってベッドで寝息を立てていました。お母さんもこの様子を見て安心していました。ただ、私からするとこれでこの問題が解決したわけではありません。霊的な波長が近く、これだけ執着の強い不浄霊は、いずれまたお嬢さんに舞い戻って憑いてくることは明らかです。私は後日、お嬢さんの波長に合った”カミナリ水晶”を4本用意しました。そして、この水晶を部屋の四隅に設置して、それを起点に室内に結界を張りました。ここまですれば、不浄霊は室内に入り込めませんのでお嬢さんには近づけません。ただ、この執拗な不浄霊はそれでもお嬢さんの外出時を狙ってまた憑依してきましたので、お嬢さんにはポケットに入るお守りの札と携帯用に私がマントラを念じ込めたパワーストーンを持ってもらいました。

 

昔はよく”女の恨み恐い”と言いましたが、遊郭や岡場所は、幸せに生きようとする女性の気持ちを踏みにじって成立していました。その苦しみや怒りを考えた時、その罪は非常に重いものだと改めて実感しました。人は誰でも幸せに生きる権利があります。それを自分の都合でゆがめることは決して許されることではないのです。