時空がゆがんでいるようなこの場所は、まず空気が全く違います。妙にさめざめと冷え切っています。それでいて体にべたつくような湿気があります。臭いはそれぞれの場所で異なりましたが、とても嫌な臭いです。ここの臭いは、生ものが腐ったような臭いです。青木ヶ原樹海では、硫化水素のような臭いがしました。そしてどこの場所でも、このポイントでは足を踏み込んだ感覚がおかしいのです。地面を踏みしめているのに何ら反発を感じません。ふわふわと浮いているように、靴底から何も伝わってこないのです。そして人の悲鳴のような叫び声やキーンという金属音が聞こえたと思うと、子供の笑い声や梵鐘の音もしました。

 

普通は霊体の影響で音が聞こえてくるときは、その音に意味があります。たとえば空襲に遭って近くで爆弾が破裂して死んだ霊は、上空を飛ぶ爆撃機の轟音や爆弾が落ちてくる音、爆弾が破裂した爆音、そして阿鼻叫喚の叫び声など、情景が見えなくても音を聞いているだけで何があったのかはおおよそ見当がつきます。自分が死に直面した状況を分かってもらいたくて伝えてくることが多いからです。強い憎しみや恨みを抱えて死んだ霊であれば、自分が強いられた苦しみの内容がわかるような音がしてくるのです。そういった理由が無くて、単に霊的な波長が合ったことで憑依してくる霊の場合は、鈴の音やお経を唱える声など、明確に状況を訴えてこないこともあります。ただ、このポイントのように、時間や空間の流れが狂っているような場所では、聞こえてくる音に脈絡が無いのです。

 

ただ、それはランダムに音が鳴っているという感じではないのです。殺された人や強い恨みを持って死んだ人や事故で亡くなった人など、この土地に渦巻いている霊や念の意識に残っている音の断面が、一斉に私の耳に飛び込んできたような感じなのです。

 

あと、最も分かりやすいのは、このようなポイントでは、生物が正常に育ちません。地面を這っている虫が目に留まりましたが、今まで見たこともないような気持ちの悪い形をしています。全体から悪臭を放ち、通った後の地面には黄色い液体が付着しています。付近に生えている木々は、強い圧力を受け続けたように、幹や枝が蔦のようにねじ曲がっています。普通は大きな木々は根元から先端へ行くにしたがって枝が細くなるものです。しかし、このポイントでは、枝の一部分がこぶのように太くなっていたり、そのこぶが明らかに人面になっていたりしています。このポイントは正常な自然界とはかけ離れて存在しているのです。

 

こういった場所にもし人間が迷い込んでしまった時、間違いなく正常な判断能力は失われます。喜びの時間だけでなく、憎しみや苦しみの思い出さえも、バラバラに解体されて、その断片があちらこちらに転がっているのです。そして多くの場合、このようなポイントに迷い込んだ人は、孤独の中で死を迎えます。それも自分が自殺をしたという認識すら無い中で、自ら自分の肉体の活動を終わらせるために死を選ぶのです。

 

きっとまだ私が知らないこのようなポイントが世界中には数多くあるはずです。特に山や森の中では、道を外れて深く入り込まないように皆さん、気を付けてください。