私は日を改めて、また大山阿夫利神社までやってきました。今度は早朝に家を出て、9時ごろには神社の近くの市営駐車場に車を止めました。これで今日は時間を気にせずに行方不明の男性を追跡することができます。私は神社のわきの山頂へ向かう登山道をまた登り始めました。ただ、私がこの男性の波長を追いかけると、この男性はまっすぐにこの登山道を登らずに、小さなわき道から登山道を外れて山の中へ向かっていきました。小さな小道はどんどん道が無くなり、うっそうとして木々の茂る深い山の中を進んでいきます。人里離れた場所を死に場所にしようとする人は、人目に付く登山道では死にません。この男性も人目に付かないような深い山の中に入り、できれば死んだ後の自分の亡骸が発見されずに、土に同化することを望んでいるように感じました。

 

登山道を外れて、この男性の波長だけを頼りに、1時間ぐらい歩きました。すると木々の生えていない小さな広場のような場所に出ました。ただ、うっそうとした木々の中から少し視界が開けたこの場所に出たとたん、何とも言えない嫌な感じがして、激しい頭痛とともに全身に悪寒が走りました。

”この場所は狂っている”

とっさにそう感じました。何が狂っているのか。この空間のすべてが異常なのです。磁場が狂っているのか、因縁因果による強い念が渦巻いているのか、何か強い悪霊がここに棲みついているのか。冷静にそれを分析するよりも前に、私の身体にあるセンサーがこの場所にいることの危険を強く私に知らせてきたのです。

 

私は口でマントラを唱え、両手はポケットの中にあるパワーストーンを握りしめ、瞬間的に5~6メートル後ずさりしました。そのとき後ろに下がった私に、誰かがぶつかったように感じました。それも一人ではなく複数です。私は後ろを振り向いてはいけないと思い、前を向いたまま足を遣って戻り続けたのです。私にぶつかった人が誰なのかは分かりませんが、生きている人間でないことははっきりとわかりました。気が付くと空は晴れているのに、私の周囲だけが暗くなっていて、まるで異次元の世界に足を踏み込んだように感じました。

 

私は後ろ向きに歩きながら、その場所を離れました。しばらくすると私の周囲にはまた午前中の陽光が降り注ぎ、嫌な空気はフィタンチッドの溢れたさわやかな山の空気に変わりました。

 

私は今自分が目にした景色がどこかで見たことがあることに気づきました。それは行方不明者の捜索で富士山のふもとにある”青木ヶ原樹海”に入った時、そして同じく行方不明の男性を探して、南アルプスの北岳へ入った時です。どちらも山や森のほとんどは何ら異常は感じませんでしたが、一部分だけ明らかに時空がゆがんでいる場所がありました。(3)へ続く。