人間は目で物を見ています。そしてその情報は脳へ伝わり、そこでその情報を処理しています。視力の良し悪しはおのずとありますが、視界の中にある物体には視線が届いているように思っています。ただ、私のように日常的に目に見えない世界を体感するようになると、人間の目で見えるものは本当に限られていると感じます。また、どれだけ視力の良い人でも人の視力はその性能自体に限界があるものだと思います。

 

例えば、車を運転中に後部座席に何かの気配を感じたとします。おそるおそる後ろを振り向いても誰も座っていません。何か物が置いているわけでもありません。ホッとして視線を前へ向けてバックミラーを見た瞬間に、血だらけの人間が後部座席に座っていて、恨めしそうにこちらを睨んでいることがあります。こういったケースにはこの逆のパターンもあります。人の気配を感じたのでバックミラーを見たところ、何も見えなかったので安心して後ろを振り返ったところ、後部座席に人が座っていたようなケースです。前者のパターンでは肉眼で捉えられなかった人間が、鏡というフィルターを通したことによって認識できたということです。

 

今回、こんな話を書いているのは、昨夜、ちょっと変わった出来事が起こったからです。今の自動車はとても安全に配慮をしています。私の乗っている車もレーダーセーフティーといって、車の周囲をレーダーが監視していて近くに人や物があれば、センサーがそれを捉えて危険を知らせてくれます。例えば、ドアミラーですが、運転中にもし、私の車がガードレールに近づいたとします。すると最初はオレンジ色の三角形がドアミラーの中に浮かび上がって危険を教えてくれます。さらにガードレールとの距離が近くなると、今度はその三角形の色が赤色に変わります。さらにもっとガードレールに接近すれば警告音が鳴って危険を知らせてくれるのです。

 

これはガードレールに限ったことではありません。例えば私の車が走行中に後ろから走ってきた車が、隣の車線から私の車に近づいて私の車を追い越していったとします。近づいてきた段階でドアミラーに黄色の三角形が浮かび上がり、並走している状態では三角形は赤色に変わり、私を抜き去った後は何も表示されなくなります。これは死角に入って運転席から見えない人や車などにぶつからないようにするための安全装置です。

 

ただ、昨夜、出張鑑定の帰りに車を運転している時、誰もいない道路で突然左側のドアミラーに黄色の三角形が浮かび上がったのです。目視してバックミラーでも確認しましたが、私の車の周囲に走っている車は一台もありません。付近には大きな霊園もある郊外の道路です。私は急に嫌な感じがしてきました。そして早く通り過ぎようとアクセルを踏み込みました。

 

もう少し走れば大きな国道に出ます。私が少しホッした瞬間、周囲には車も人も見えないのに、ドアミラーの三角形が赤色に変わったのです。三角形の色が赤色になったということは私の車のすぐ近くに人か物がいるという警告です。そして赤色の三角形は国道に出るまでの5分近くの間、ずっと点灯し続けたのです。

 

私はドアミラーの三角形が赤色になった瞬間、条件反射のようにご真言を唱え始めていました。そして目を見開いて頭を覚醒させて、気持ちで負けないように意識を高めながらハンドルを握り続けました。

 

国道に出ると赤色の三角形はすぐに消えて何も表示されなくなりました。昨夜は特に霊障などは起こらずに無事に家路に着くことができました。ただ、赤色の三角形が点灯していた間、きっと私の視力では認識できない何かが、私の車の外にずっとへばり付いていたのだと思います。