日が落ちて周囲が漆黒の闇に染まり、私たちは一気に不安になりました。ちょうどそんなときに、ゆらゆらと揺れるたいまつのような灯りが、左斜め上方に数個点在して見えました。その灯りを目にした私たちは、消耗していた心身に再び力がよみがえりました。あの辺りに家や集落があるとは思えませんが、進む方向を見失っていった私たちに、その灯りは明確な目印になったのです。私たちは力を振り絞って、その灯りを目指して山を登りました。するとどうでしょう。登り始めて30分も経たないうちに、私たちは山頂に出たのでした。山頂の反対側は、思った通りゲレンデになっていて、ホテルの明かりも眼下に見えています。ただ、登ってきた山道を振り返ると、私たちが目印にしていた灯りはどこにも見当たりませんでした。

 

それでも私たちは一気に胸をなでおろしました。そして落ちていたストックを杖の代わりにしてゲレンデを下りたのでした。夜8時を前にホテルに到着した私たちは、心配していたホテルのスタッフにお詫びをして、あの灯りに救われたことを話しました。ただ、私たちの話にホテルのスタッフはきょとんとするばかりで、ゲレンデの反対斜面には1軒の家も建っていないと言いました。今でも山の中で見たあのゆらゆらとした灯りは私の目に焼き付いています。

 

また、以前にもこのブログで触れましたが、車を運転中に近道をしようとして入った山の中の林道で不思議な出来事にあったこともありました。国道から脇道のように伸びるその林道は進むにつれてどんどん狭くなってしまい、気が付けば戻るに戻れない状態に追い込まれたのでした。最初は普通に車が通れる道幅があったのですが、最後は茂みの中をかき分けるような状態になってしまいました。しかも国道からすでに5キロ以上は入り込んでいます。さらに道路の左側は、ガードレールのない崖になっています。この5キロ以上の狭い道をバックで戻ることは至難な業です。携帯電話もつながらず、どうしたらよいのか悩んでいる時に前方の山の中から車のヘッドライトが近づいてきたのです。私は車をバックして、何とか2台がすれ違えるところまで車を移動しました。そして対向車の人に道を尋ねてみようと思い、車を止めて待機しました。

 

ヘッドライトはどんどん近づいてきて対向車は私のすぐ横まで来ました。今、思い出しても対向車の車種も色もよく思い出せません。ただ、窓を開けて運転している人の顔をみましたが、血の気のない顔をした女性だったように思います。

「すみません。この道はこの先抜けることができますか?」

私は大きな声で話しかけました。しかし、この女性は無表情のまま私に一瞥をくれることもなく、前方に目線を向けたまま黙ってすれ違っていったのでした。

 

私はこの女性に何か生きている人間とは違う強い違和感を覚えました。ただ、この狭い道から早く抜け出したい私は、その違和感を無理に押し殺して車を前へ進めました。前から車が来たということは、道が国道に抜けているか、抜けていなくてもUターンできる場所があると思ったからです。それからしばらくして私は国道に出ることができました。この林道は思った通り、国道まで抜けていたのです。

 

ただ、翌日、地図でこの道を確認すると、そのような道は地図に書かれてはいませんでした。気になった私はもう一度、車を運転して、この林道を探しました。記憶をたどって国道を走りながら脇道を探しました。おそらく該当するポイントに脇道がありましたが、その道は国道からわずか20mほど入ったところに大きな柵が設置されていて進入禁止になっていたのです。その柵は道を完全にふさいでいましたから、車がこの柵を超えて中に入ることは不可能でした。(3)へ続く。