自分の意識を変えることによって同じ作業をしても疲労感が半減したり、成果に大きな差が出ることがあります。これは仕事でも勉強でもスポーツでも多くの場面で言えることです。最近、勉強が伸び悩んでいる受験生や仕事の成果が出ないで悩んでいるサラリーマンに、意識について話したことがありました。この二人に共通しているのは、仕事や勉強に対して能動的なモチベーションを持てないでいることでした。受験生の場合は、ご両親が医師で病院を経営しているため、子供のころから親に医者になるように方向づけられて生きてきました。本人もそれを当然のこととして受け入れて、高校3年生になるまで勉強を続けてきました。しかし、受験を前にしたこの大事な時期にきて、「自分は何のために医師を目指しているのか」その理由が分からなくなってしまい、一気に勉強をするモチベーションを失ってしまったのでした。
モチベーションを失った本人に残っているのは、親や先生から勉強して医学部合格を目指すように言われている義務感だけです。自分の気持ちの中に医師を目指そうとする意欲がない中で、周囲から勝手に期待されて受験勉強のテクニックだけ教わる毎日は、苦痛と忍耐以外の何物でもありません。私も若いころに予備校の講師をしていて、偏差値35の生徒も偏差値70の生徒も希望する大学へ合格できるように、一緒になって取り組んできました。ですから本人の目的意識が明確でない状態で、受験勉強をすることの効率の悪さ、逆に言えば、高いモチベーションを持って勉強することで学習効果が何倍にもなることはよくわかっています。
私は子供の成績が伸び悩んでいるという親御さんに伝えました。「今、成績が伸び悩んでいるいる理由は、受験勉強のテクニックや勉強方法の問題ではありません。どうして医学部合格を目指しているのかという根本的な問題です。ですからこのまま無理に勉強を強いるのではなく、一旦、受験勉強から離れて医師という仕事のやりがいや充実感、その素晴らしさを本人に伝えてください。医師という仕事は命というかけがえのないものを救うことができます。助けてほしいと願う本人や家族の切なる思いに応えてあげることができるのです。今頑張って勉強していく先には、そんな素晴らしい仕事に就ける自分の未来があるのです。それを伝えてください」
医学部の合格を目指して勉強しているこのお子さんは、その先にある医師という仕事を十分理解しないままに、勉強に取り組んでいるように感じました。したがってその仕事をもう一度、自分の目で見つめ直し、その責任の重さややりがいに気付けば、もう迷うことなく医師になるための勉強に集中していけるはずです。何かをやろうとするときに、自分がどういう意識で取り組んでいくのか、その意識の違いは成果に大きな違いを作り出していくのです。(2)へ続く。