私は実際に訪れたことがない場所ですし、きっとこれからも上陸することのない島ですから、どのような状況なのか興味がありました。彼はそんな私の心を見透かしたように話し始めました。
「絶海の孤島で周囲は一面が澄んだ海に囲まれて、本当にきれいなところだよ。海の色が本土とは全然違うからね。ただ、正直、危ない話は山のようにあるんだよ」
彼によると心霊現象の類は、ほぼ日常的に起こっているようです。いわゆる幽霊を見たとか、夜に兵隊が隊列を組んで行進しているところを見たといった目撃談は非常に多いようです。また、夜、宿舎で寝ている時に、兵隊が行進している足音が聞こえたとか、突撃を指示する上官の叫び声や機銃のような大きな物音が聞こえて、思わず飛び起きて外を確認した人もいたようです。この大きな音は同室の他の隊員も聞いていて、一緒に外を見回りましたが、誰一人歩いていなかったといいます。
あとは島に設置された慰霊碑に誤ってぶつかって踏んでしまった隊員が、その日の夜から高熱が出て、熱が下がらずに精神的にもおかしくなったとか、「水をくれ」と言ってボロボロの軍服を着た兵隊が何人も寄ってきたという体験をした人もいたようです。他には島で過ごした記念に島の石や砂を内緒で持ち帰った人が、本土に戻ってから行方不明になってしまったという話もありました。
私は彼に尋ねました。
「あなた自身は何か心霊体験はしたの?」
すると彼は、
「俺は元々、霊感のあるタイプじゃないから、心霊体験なんてしたことないけどさ。ただ、車の中と宿舎で寝ていた時に、窓の外を誰かが何度もノックしたんだよ。本当に誰でもわかるぐらいのはっきりした音でね。それで誰か来たのかと思って窓の外を見たけど、誰もいなかった。そんなことが4~5回はあったね」
戦争は人を殺し、破壊することを目的とした悲惨なものでしかありません。それを正当化する大義は存在しないと私は思っています。特に硫黄島の戦いでは、日本軍は絶望的な戦況の中、飲み水も弾薬もない中で戦い続けました。一人一人、将来のある若者の人生が、73年前にこの島で突然終わってしまったのです。その時の兵士たちの気持ちを思うと本当に胸が痛みます。どうか亡くなった後はもう迷い続けることなく、すみやかに成仏していただき、来世では幸せな人生を生きていただきたいです。