荒川区南千住にある浄閑寺は、近くに吉原遊郭があったことから投げ込み寺として知られています。投げ込み寺とは、遊女や行き倒れた人の亡骸をその処理に困ってお寺に投げ込んだことからそのように言われています。吉原遊郭の浄閑寺は有名ですが、内藤新宿や品川宿、板橋宿、川崎宿など、昔は大きな宿場町の近くには投げ込み寺と言われるお寺は数多く存在しました。

 

遊女の多くは自分の意思に反して親や親族、或いは夫によって女衒(ぜげん)と呼ばれる”人買い”に売り渡されて、遊郭に連れてこられました。そこで男性の性処理の相手をさせられて、その多くは性病に罹り、或いは体を壊して死んでいきました。そしてその亡骸は、きちんと弔われることなく、ゴミのようにお寺に投げ込まれていたのです。その無念さや絶望感は察するに余りあります。

 

私は今までに千人以上の除霊を行ってきました。その中で遊女の不浄霊に憑依された人も何人もいました。遊女の霊は一応に重く強くて難しい除霊になります。遊女の霊は多くの場合、男性よりも女性に憑きます。霊の憑依の根本は霊的な波長が合うかどうかで決まります。ただ、死んだ自分と容姿や年齢が近いと、その女性に自分の人生を重ね合わせてガッチリと憑依してきます。そこには今の時代を幸せに生きている女性に対するうらやましさや自分の無念さを伝えようとする思いなどが、複雑に絡み合っています。

 

憑依された女性に私が状況を説明すると、多くの場合、思い当たるふしがあると答えます。最近、夢で遊郭や花魁が出てきたという人もいれば、今まで考えたこともなかったのに、何気なく遊郭や遊女の画集を目にしたり、足が遊郭の跡地へ向くこともあったと話します。憑依された人は、自分の”無意識”に遊女の霊が入り込んできますので、何気なくしている行動にその影響が出ます。したがって憑依されてから、彼氏のことが急に受け入れられなくなったとか、信頼できなくなって別れてしまったということもしばしばあります。

 

霊の影響はその人の心身に出ます。それは多くの場合、憑依した霊の状態が自分に投影されます。したがって本来の自分の意思とは別の方向へ人生を捻じ曲げてしまうこともあります。

 

成仏することができずに現世にとどまっている霊は100%強いネガティブな理由を持っています。憑かれた人からすれば大変迷惑な話でしかありませんが、除霊でその霊を祓うときは、おのずと供養のためのマントラも唱えています。不幸にして現世では厳しい人生を強いられてしまった霊に、早くあの世へ上がり、来世できっと幸せな人生を生きることを願わずにはいられません。