今回、この女性に蓄積されている生霊を祓った時もそうですが、生霊を身体から出すときは、かなり強く喉に絡みついてきます。マントラを唱えながら、私もこの女性も何度も咳き込んで、それが止まらなくなりました。これはかなり不快ですし苦しみます。このとき私の頭の中には、生霊の内容が映像となって頭に浮かびます。それはこの女性と一緒に過ごしている光景がこの男性目線で出てくるのです。一緒に町を歩いたり、食事をしている楽しそうな状況がリアルに浮かんできます。

 

概ねこの段階では私の頭の中に悪いものは伝わってこないのですが、この楽しそうな景色はすぐに急変していくのです。雨雲が空いっぱいに広がって夕立が降りだすように、映像の色彩はすぐに暗く陰鬱な色に染められていきます。そして嫉妬心や怒りや欲望が混ざり合った黒い嵐が頭の中に吹き荒れてきます。私は吹き荒れている嵐の中に飛び出して、黒い雲を少しずつ吸い取っていきいます。私自身が吸い込みながら一瞬で私から抜いていくのです。そうやって頭の中から黒い雲が消えて、再び日が差し込んでくるまで、口ではマントラを唱え続けていきます。この作業はかなりつらくなる時もあって、祓う私も祓われる本人も決して気持ちの良いものではありません。

 

一方、死霊を祓うときも頭の中にはその死霊の目線でみた景色が展開されます。それは主に死霊が死ぬ直前に見た景色が何度も出てきます。誰かに殺されたなら、殺した人の顔が見えたり、凶器が目の前で光ったりします。戦場で爆死した霊であれば、耳をつんざくような爆音や振動を感じ、目の前に砂塵が立ちのぼります。

 

除霊は不浄霊にお願いしても出て行ってはくれません。マントラや印などを武器にしながら身体に入り込んでいる霊と戦います。これは一瞬も気の抜けない厳しい作業です。ですが私が死霊を吸い込んで一瞬で抜き出したときは、気持ちが良いというほどではなくてもかなりスッキリできます。発熱時に、全身が痛むような苦しい状態だったものが、解熱剤を点滴して体温が急激に下がっていくようなスッキリ感、そして体が楽になる感じがするのです。それは祓われている方も同様で、体に憑依していた霊が抜けていくに従い、体は軽くなり、視力が良くなったように視界もクリアになります。除霊中に身体が楽になって気持ち良さから眠り込んでしまう方もしばしばいます。そして憑依していたものを完全に祓ったあとには、爽快感にも似た達成感を感じます。

 

除霊という作業は危険を伴いますし、痛みや苦しさも感じますので、喜んでする人はいません。ただ、どちらの方がまだましかと言えば、私からすれば、死霊を除霊する方が気持ちは多少楽なのです。