昨日、たまたまテレビをつけた時、NHKでアスリートの”ブレイクスルー”について放送していました。ブレイクスルーとは、進歩とか前進・革新などと訳されれる英単語で、それまでずっと壁になっていた事象を突破することを言います。番組ではさまざまな競技のブレイクスルーを取り上げていましたが、私が印象に残ったのは陸上競技です。日本ではあまり行われませんが、番組では陸上男子1マイル(1609・344m)競走について分析がなされました。

 

この競技では、フィンランドのヌルミという選手が、1923年に4分10秒3という世界新記録を打ち立てました。これは当時の世界記録を2秒も短縮する画期的な記録でそれまで37年間も破られなかった記録を更新しました。この時、多くの人は人間が1マイル競走で4分を切ることは無理だと考えました。これはまさに”超えることのできない壁”で、当時はエベレスト登頂や南極点到達よりも不可能なことだと言われていたのです。

 

ところが1954年になって、イギリス人のロジャー・バニスターが、科学的トレーニングをして、2人のペースメーカーをつけて、3分59秒4という記録を打ち立てました。するとそれから46日後にライバルだったオーストラリアのジョン・ランディが3分58秒で走り、絶対に抜けないと思われたバニスターの記録はあっさり更新されたのです。さらにバニスターが4分の壁を破ってから1年後には、ジョン・ランディを含む23人もの選手が4分の壁を破りました。このことは、最初から無理だと決めてかかることで、本来は突破できる力があっても力が発揮できなくなることの一例としてメンタルトレーニングの世界ではよく取り上げられます。ちなみに現在の陸上男子1マイル競走の世界記録は1999年にモロッコのエルゲルージが出した3分43秒13です。

 

日本でも陸上男子100m競走で、長年破ることのできなかった10秒の壁を昨年9月9日に桐生祥秀選手が、初めて破る9秒98を記録しました。するとわずか2週間後の2017年9月24日に山縣亮太選手が、自己記録を更新する日本歴代2位の10秒00で走りました。ただ、桐生選手の記録は追い風1・8mの絶好のコンディションで、山縣選手は向かい風0・2mで出した記録です。風の影響をタイムに換算すると、もし、山縣選手が向かい風1・8mで走っていたとすると、タイムは9秒87に相当するのです。

 

山縣選手は、桐生選手が10秒の壁を破ったことで、自分が先に越えなければというプレッシャーがなくなり、力が抜けて良い走りができたのではないかと自己分析していました。

 

ブレイクスルーがまたたく間に他の人にも波及することは、スポーツの世界でもそれ以外の世界でも数多く見受けられます。1マイル競走でも山縣選手も自分がブレイクスルーした理由はそれぞれに分析していますが、私はまた、違った視点でブレイクスルーを見ています。誰かがブレイクスルーしたことが、他の人のブレイクスルーを引き起こす理由は確実にあります。(2)へ続く。