答えはすぐに見つかりました。家の敷地に入った脇に大きなガレージがあります。その中には走り屋が好んで乗るような改造車が数台止められていました。ご両親によると、息子さんの働く自動車整備会社には、事故を起こして廃車になるような車も持ち込まれています。その中で修理をすればまだ走りそうな車は、息子さんが持ち主から安く買い取って、自分で修理をして乗り回しているそうです。それらはどれも太いタイヤを付けて車高を下げていました。その中の一台に明らかに異彩を放っている車があったのです。
「この車は?」
私がご両親に尋ねるとすぐに答えが返ってきました。「これも息子が勤め先に持ち込まれた事故車を自分で整備して乗っています。ただ、息子が体調がおかしくなる前に持ってきた車で、私たちが見ても何か嫌な感じがしています」ご両親はそういって目を伏せました。
「事故の程度はどうだったのですか?極端に言えば人が亡くなっているとかは?」私の問いかけにご両親は「息子が言うには事故を起こした本人が持ち込んできましたし、かなりつぶれていましたが、事故は自損事故ですので人をはねたような事故ではなかったようです」と答えました。
私はご両親の答えを聞いている間、この車が峠道で蛇行したのちにスピンをして激しくガードレールや電柱にぶつかる様子が頭に浮かびました。確かにそこに歩行者や対向車は見えませんでした。
ただ、次の瞬間、思わず息を飲みました。息子さんの顔の奥に見えた若者の霊が、この車が自損事故を起こした時に、フロントバンパーにぶつかって体が跳ね上がり、フロントガラスに頭からぶつかってフロントガラス全面に血のりが付いた状況がリアルに頭をよぎったのです。
つまりこの車の前の持ち主が自損事故を起こしたのは、それ以前の持ち主がこの車で若者をはねて死亡させてしまい、その怨念がこの車にしみついていたことで引き起こされた事故だったのです。
無謀な運転によって未来のある若者が一瞬で命を奪われた悔しさや悲しみは察して余りあります。その無念の思いが自分の命を奪ったこの車に強くしみ込んでいたのです。そして自分の命を奪った加害者と同様に、車を改造して峠を疾走しているこの家の息子さんへの憎しみに変質したのです。
私はすぐにこの車をお祓いしました。そして直ちに廃車にするようにご両親に話しました。それと同時に息子さんの除霊を行い憑いていた若者の霊を祓いました。その結果、息子さんは徐々に本来の自分に戻り、体調も回復して元の生活を取り戻しました。ただし、走り屋は卒業したそうです。
ただ、この若者の霊は祓っただけであの世へ上げた(=浄霊)わけではありません。したがって今でも現世にとどまり、峠を疾走している人たちを恨めしく思いながら見つめています。そして自分と波長の合う人がいれば、また憑依して自分の無念の思いをぶつけるのです。