昭夫さんの命拾いもかなり奇跡的ですが、ここでもう一人、強い守護霊のおかげで命拾いした方の話をします。今度は仮に浩二君としておきましょう。
浩二君は今は2児の父親として都内に住んでまじめにIT関係の仕事に就いています。年齢は40歳ぐらいです。浩二君が20代の後半の頃に、若気の至りで羽目を外して危うく命を落としかけたことがありました。
ある時、浩二君の会社の同僚の女性の別荘に会社の仲間数人で泊まりに行くことになりました。その女性はお金持ちのお嬢さんで鎌倉の七里ガ浜の高台に父親が別荘を持っていました。七里ガ浜は鎌倉の由比ガ浜と江の島のちょうど中間ぐらいにあります。浜辺のすぐ横には国道134号線が通っていて湘南をドライブするときには必ずと言ってよいほどよく使う道です。
金曜日に仕事が終わった後、都内の会社からこの女性の別荘に仲間たちは集合しました。それぞれが持ち寄った食材やお酒を飲んで、みんなとても上機嫌でした。楽しい酒宴はなかなか終わりにならず、それどころか午前3時を過ぎたころには、歩いて15分ほどの浜辺まで、みんなで泳ぎに行こうと盛り上がっていました。
ただ、由比ガ浜や江の島に海水浴場はありますが、七里ガ浜に海水浴場はありません。ここは浜辺から少し海に入ったところで海底がえぐれていて急激に深くなります。また、離岸流がしばしば発生するため、ひどい時はサーファーでも浜に戻るのに苦労するところです。
そんなことを知らない浩二君と仲間は、酔った勢いで海に入り浜辺に沿って服を着たまま泳ぎ始めてしまいました。時期はまだ寒い3月の午前4時ごろのことです。
3人の男性が浜辺に沿って泳いでいましたが、一人はすぐに浜に上がりました。浩二君と水泳競技で国体に出たという先輩社員の2人がまだ浜辺と平行に泳いでいて、女性たちは浜辺からその様子を眺めていました。そしてすぐに問題が発生しました。
浜辺と平行に泳いでいたはずの浩二君がわずか2~3分の間に一気に沖へ流されました。引き潮と離岸流です。浩二君はあっという間に30メートルも沖まで流されて、慌ててクロールで浜辺に戻ろうとしていますが、体は逆にさらに沖へ引っ張られていきます。水泳が得意な先輩社員がこの状況に気づいて浩二君を助けに向かいました。この先輩は泳ぎながら浩二君の体を押して、浜辺に戻そうとしますが、二人の影はどんどん沖へ消えていきました。
このあたりの海底はえぐれているために浩二君はひと波かぶるたびに、波に巻き込まれて海中に沈みます。そして必死で海面に顔を出して息を吸うと、すぐに次の波が襲ってきました。浩二君は波をかぶるたびに海中で海水を飲みましたが、そのたびに必死で海面に顔を出して息を吸っています。先輩社員も近くで同じような状況になっています。
浩二君はだんだん意識が薄れていく中で、「溺れて死ぬ人はみんなこんな景色を見ているんだ」とぼんやり思ったそうです。
ただ、次の瞬間、誰かに背中を押されたと感じたそうです。浜辺に向かって背中を押す力を感じて我に返った浩二君は、「もし、このまま死ぬとしても、意識がある限り、浜辺へ向かって必死で泳ぎ続けよう」と気持ちを切り替えたそうです。
そして海面に顔を出した時に浜辺を見ると、なんといつの間にか距離は今までの半分ぐらいに近づいていました。一瞬、離岸流が止まり、潮の流れが変わったのです。
そして浜辺にいたサーファーがロングボードを3人で漕いで、救助に来てくれました。浩二君は必死でボードにつかまり、浜に戻りました。
ただ、これだけではまだ安心できません。3月の明け方はとても寒く、しかも溺れて体が冷え切っている浩二君はここで凍死する可能性があるからです。一刻も早く救急車を呼ばなければなりませんが、この時代はまだ携帯電話は普及していませんし、近くに公衆電話もありません。別荘まで走っても上り坂で10分はかかります。
ちょうどその時、たまたま白バイが通りかかりました。白バイの警官に事情を話して、白バイの無線ですぐに救急車を呼んでもらいました。そして浩二君は救急車に載せられて近くの病院へ運ばれ九死に一生を得たのです。
この問題を整理すると、浩二君の無軌道な行動がこの問題を引き起こしたのは明らかです。
ただ、ひと波ごとに海中に巻き込まれて意識を失いかけていた浩二君を救ったのは背中を押した何かの力でした。そして、その力が働いた後は、離岸流が止まり、潮の流れが一瞬変わり、浜に戻ってからは偶然白バイが通りました。この何かの力がすべての流れを変えて浩二君の命を救ったのです。(4)へ続く。