私は蒲田駅付近の国道15号線上の道幅がやや広くなったところに車を止めました。時間は8時半を回ったところです。
~ここで待っていれば必ず来る~
 
そう思って霊が出てくるのを待ちましたが初日は9時半まで待ったもののこの霊は現れませんでした。川崎で見てから3日経っていますから、どこかで寄り道をしているとしても、もうそろそろ現れるはずです。それとももう用事を済ませてどこか遠くへ移動してしまったのでしょうか。
 
いつまでもただ、霊を待ち続けることもできません。私は3日間待って会えなければ、諦めてこの霊にこだわることはやめようと決めていました。
 
そして3日目の午後9時です。白いワンピースを着た女性の霊は私が止めた車の真横をついに通り過ぎたのです。いつもと同じように長い髪の毛を垂らして顔はうつむいたまま、こちらを見向きもせずに都心へ向かって歩いています。
 
ただ、近くでこの霊を見て初めて分かったのは、白いワンピースと思った服は白い着物で、両手で見えませんでしたが、両脇のあばら骨のあたりが血で真っ赤に染まっています。
 
その瞬間、私の頭に江戸時代に行われていた刑罰”磔(はりつけ)”の様子が頭をよぎりました。磔刑は十字架のような柱に罪人を縛り付けて、長い槍で左右から脇腹を刺して殺します。その遺体は見せしめのために数日間そのままさらされたと言います。
 
さらにせきを切ったようにセピア色のくすんだ動画が頭の中に流れました。この女性は無実にもかかわらず、知り合いに罠をかけられ、奉行所に捕まりました。当時は正確な捜査など行われませんでしたら、奉行所で拷問にかけられて自白を強要され、磔にされてしまったのです。ここからわずか3キロ北へ向かうと”鈴ヶ森の刑場”があります。
 
箱根の関所に突き出され、江戸の南の刑場であった”鈴ヶ森の刑場”で無念の思いや強い恨みを残して命を落としたのです。
 
現世にいまだに執着しているこの霊は、箱根から鈴ヶ森まで、これからも何百回となく歩き続けながら、自分を罠にはめた人間の子孫に祟り続けています。それがこの霊が寄り道をしている理由なのです。
 
私は車の中から哀れなこの霊を見ながら、早く恨みや執着を捨てて、成仏するよう祈らずにはいられませんでした。