私は行方不明者の捜索で山梨県南アルプス市にある”北岳”まで出かけたことがあります。北岳と言ってもこの日本で第2位の高峰に登山したわけではなく、ふもとの温泉街から車で上がれる範囲での話です。
私はいつものように行方不明者の波長を追いかけてここまで来たのですが、私の頭にはお堂のような建物や巫女のような恰好をした女性が頻繁に出ていました。何か宗教団体の施設があって、行方不明者はその中にいるのではないかと感じていました。
私は自分の感覚だけを信じて波長を追いかけているうちに、かなり高いところまで上がっていました。車のナビを見ると、途中からひどく誤作動をしていて、いつしかまったく役に立たなくなっています。気が付くと夕日はとっくに山の向こう側へ隠れてあたりは夜のとばりが包み込んでいました。
~ここで道に迷うことは現実的にも霊的にも危険~
私の心には不安の影が大きく広がっていて何かの警告を感じています。
「とにかく山を下りよう」
そう考えた私の目に下り坂になっている小道が目に入りました。今まで走ってきた広い道から外れた小道ですが、山を下りたい私には救いの道に思えました。
私は迷わずその下り坂の小道に入りました。その道は奥に進むごとに道幅が狭くなり、すでに車が行き違うことはできなくなっています。しかも、さっきまで下っていたのに、途中から上り坂になってしまい、むしろ山奥深く入り込んでいきます。
私は車を止めてしばらく考えました。
「このまま進むのか、バックで戻って来た道を帰るのか」
ちょうどその時、前方の茂みの先に車のヘッドライトが光りました。
~狭くなったこの道はこのまま進むとその先で無くなってしまうのではないか~
そんな不安も抱えていた私は、道が先まで続いていることにひどく安心しました。しかも、対向車がこちらに向かっているということは、このまま進んでもきっとどこかに出るのではないか。そんな期待も私に持たせました。
安心した私は次に、この狭い道のどこですれ違うのかとっさに考えました。今まで来た道に車が2台すれ違えるスペースはありません。相当後ろまでバックで戻らなければなりません。
そのとき目を凝らすと30mくらい先に少しだけ道幅が広くなっているスペースがありました。
~ここしかない~
私はゆっくりと車をその場所まで進めると、茂みの枝が当たるギリギリ左まで車を寄せました。そして近づいてくる車のヘッドライトに目を凝らしました。
車は黒い4輪駆動車で白い巫女のような着物を着た髪の毛の長い女性が運転席に見えました。
~これは人間じゃない~
運転席の女性の顔がはっきりと見えた時、私は急にそう感じて全身に鳥肌が立ちました。私はギアにかけてある数珠を左手でとっさに握りました。
車が隣に並んだ瞬間、この女性は私に一瞥をくれると、口元で不気味に笑って通り過ぎていきました。
私はこの女性から逃げるように、車を前へ進めました。そして藪の中の小道を進んでいくと、やがて民家の明かりが見えてきました。そして、広い道に出ることができました。時計を見ると、この小道に入ってからわずか30分ほどの出来事でした。
私は帰宅した後にすぐに私が通った道を地図で確認しましたが、わき道に入った先に道はありませんでした。翌日も行方不明者の捜索を続けましたので、明るい時間帯にこのわき道にもう一度入ってみましたが下り坂のすぐ先は藪が茂っていて道はありませんでした。よく考えてみると、きっと何かに守られたのだと思います。