十属性の龍神達の恩恵や加護を受けて成り立っている魔界《ガルドラ》。
この魔界の住人の約九割は十属性の龍魔族ばかりで、キアを始めとする魔道族が住んでいるのは、北端の領国《レザンドニウム》だけだ。
それはさておき――
三人は砂龍族の王ランディーに、《ガルドラ龍神伝》という神話の真偽や龍神に姿を変えたそれぞれの一族の代表者達と、闇龍アルエスとの関連性を教えてもらうため、一度リタの故郷フィブラス砂漠に来ていた。
「ふぅ……。久々に、フィブラスに帰ってきたよ」
リタは、胸いっぱいに故郷の空気を吸った。その時、彼女の乳母ジオが出迎えに来た。
「殿下ー! リタ殿下ー!」
ジオは魔道師達の呪いによって顔を変えられたリタを見ながら、涙を流した。
それに対してリタは笑顔で、
「ただいま。九年ぶりだね」
と言った。ジオは涙を流しながら、返事をした。
「お帰りなさいませ、リタ殿下。そしてようこそお越し下さいました、ヨゼフ殿、ナンシー殿。私共々、手紙が届いた時からお待ちしておりました」
「リタ、この砂龍は?」
「あ、ごめんごめん。紹介が遅れたね。こちらはジオ。私の乳母さ」
「え? この魔族が、奴隷部屋でいつもあんたが言ってた、“ジオ”って魔族?」
「そうだよ」
リタ達が明るい表情で話し合っている時、城の出入り口から、誰かの足音が聞こえた。その足音は、近衛兵のセルセインのものだった。
「やあ、セルセイン。九年ぶりだね。元気だったかい?」
「ええ、もちろんですとも。ところで殿下、ランディー陛下が『話がある』と言っていましたが……」
「……わかった。今から行く。父上は、どこにいる?」
「謁見の間です。出入り口から右に行って、左に曲がり、そのまままっすぐに行って、その右側の部屋です」
「わかった。ありがとう、セルセイン」
リタはセルセインに、新築砂龍城の道案内をしてくれた礼を言うと、ランディー王が待つ謁見の間へと向かった。
だが後から、ヨゼフとナンシーが彼女を両側から挟むように、ついて来た。
「……これは私達父娘だけの話し合いだ。君達は、外でジオやセルセインと待っててくれないか?」
「まあまあ。そんなこと言うなよ、リタ。水臭いじゃないか?」
「そうよ。それにもしも今の姿について王様に聞かれて、あなたが戸惑った時に、代わりに上手に説明できる魔族がいなきゃ駄目でしょ?」
「ヨゼフ……ナンシー……」
「ついでに、あの伝説だか神話だかわからない物の真偽も、確かめないとね」
三人が話し合っている間に、ランディー王が待つ謁見の間に着いた。
リタは、扉の前で番をしている男性に話しかけた。
「ディフレン、九年ぶりだね。覚えてるか? リタだけど……」
彼女がそう言った時、ディフレンという男性は混乱した。彼はリタが幼い頃の写真と、彼女の今の姿を交互に見た。
(リタ殿下……? なんか九年前と顔が違うような……。いや、疑ってるわけではないが)
ディフレンの行動に、リタは首を傾げた。
「どうしたの? さっきから、私のことを観察してるような眼差しだけど」
ディフレンは慌てて写真を隠し、リタに言った。
「ははは、大丈夫です。もちろん、あなたのことは覚えていますよ」
「そうだよね(本当かな? 怪しいけど)。父上と話があるから、通してくれないかい?」
ディフレンはリタの命令に従って、扉を開けた。
その扉の向こう側の玉座に、ランディー王が座っていた。
リタ達は兵隊の行進のような歩き方でまっすぐ進み、片膝をついた。
(この砂龍が、リタのお父様……。なんか、頑固そうな魔族だね)
ナンシーは見た目だけで、ランディー王を勝手に頑固と決めつけていた。三人の胸の中は、緊迫感でいっぱいだった。
「九年ぶりに戻って参りました、父上」
「うむ。先程ディフレンと話している声を聞いたが、口調だけは九年前と変わらないようだな」
砂龍王はナンシーの想像とは違った、穏やかな口調でリタに言った。
(リタの男口調は、元からだったんだ……。僕はてっきり、奴隷部屋で自然にあんな口調になったのかと思ってた)
ヨゼフは不思議そうに、リタの横顔を見た。
「え? いや、この口調はいずれ直します」
「いや、別に直さなくても良いが……。それはそうと、そこにいる水龍と火龍は?」
「紹介します。左にいるのがナンシー、右にいるのがヨゼフです」
リタの後に続いて、二人は苦笑いをしながら名乗った。
「水龍族のヨゼフです」
「火龍族のナンシーです」
二人が名乗った後、リタは砂龍王に、キアの陰謀のことや《ガルドラ龍神伝》の真偽を中心に話した。
王は頷き、自分が大臣に代筆させた手紙の内容について明かした。
「あの《ガルドラ龍神伝》は事実をもとにして、代々各龍族の族長や王達に語り継がれてきた。……次期王位継承者のお前にも、いつかは知らせなければならない時が来ると思い、あの手紙を書いたのだが(こんなに早く来るとは思わなかったがな)」
十柱の龍神達に姿を変えた代表者達が、闇龍を封じたことで有名な《ガルドラ龍神伝》。――
ランディー王の話によれば、その伝説にはまだ続きがあるらしい。彼は話を進める。