(「犬や猫も不妊手術されたりとかするのですが、人間も同じ扱いだったんですね。僕は不妊手術されてませんけどね」とビーグル犬まろさんオス10歳)

 

 1週間後の7月3日に、旧優生保護法で障害などを理由に強制的に不妊手術をされた人が国に賠償を求めている裁判の判決が言い渡されます。

 旧優生保護法は1948年制定から1996年まで施行されていた法律で、遺伝性疾患を持つ者、知的障害者、精神障害者に対し本人の同意なくても強制的に不妊手術がおこなわれていました。根本には「不良な子孫」は生まれない方が社会のためになるという「優性思想」がありました。戦後でもナチスか...

 その被害者の中で声をあげ国を訴えて損害賠償を求めたのが5件、今回の判決では賠償を求められる期間が過ぎたか、旧優生保護法が憲法違反かが注目される重要な点のようです。

 強制不妊手術を受けた人は1万6千5百人、「同意」の手術の人が8千5百人と言われていて、「同意」でも実質的に強制だったと言われることもあります。

 

 これは誰が見たって「酷い」ことだったと思います。その酷さは明らか。

 

 でも、現代でもそれとはっきりと分からない形で強制不妊手術されているような人たちが沢山いるんじゃないかと思います。

 

 下に東京都の合計特殊出生率の年次推移を示します。合計特殊出生率は一人の女性が一生の間に産む子供の数の指標で人口の維持には2.06~2.07程度が必要、1を下回るとは危機的状況です。

 

年次推移(東京都全体) 東京都保健医療局 (tokyo.lg.jp)と昨年のデータから作成)

 東京は全国から若い人たちをひきつけるけれども、生活コストが高く可処分所得は低いと言われます。だから、結婚して子供を持って家庭を持つということができず、「結婚も子供を産むのも子育ても無理」という人たちが増えてしまい、生涯未婚率もどんどん上がってきてしまっています。2020年の国勢調査では男性26.4%、女性20.1%が生涯未婚だそうです。八百屋や魚屋なんかのお店の人も気軽に買い物客に「お父さん」「お母さん」「旦那さん」「奥さん」なんて言うと、買い物客の機嫌を損ねるリスクがものすごく高くなりました。

 近年は、「多様化」なんて言葉で「結婚しないのも子供を持たないのも一つの選択肢」なんて言葉が言われていますが、金を稼いでいる人ほど既婚率が高いというのもまた一つの真実です。この点について「多様化」はごまかしに過ぎないと思います。

 私は大学院で博士の学位までとってその後はアカデミックなポストを求めオーバードクターの時代も過ごしましたがなかなか職を得られず結局は一般企業に就職しました。30代で一般企業に就職したとたんに給料がポスドクのときの給料の約3倍になりました。大学院時代やオーバードクターの収入が少ない時代は結婚など思いもよらないものでしたが、その時代にずっと思っていたことが「子孫を残せないのは生物として負け組」。収入が少なければ結婚もできないし子供も持てない、ということは身に染みています。学歴だけは高くなったけれども、結局のところ収入が少ないということは、社会的に差別されているのと同じ、「子どもを残すな」と言われているのと同じ、強制不妊手術こそされていないが、社会的に強制不妊手術されていたのと同じ。

 

 今の、「給料が低いから結婚もできず子供も持てない。しかも『子育て支援』の政策のせいで自分の給料から税金や社会保険料で金がどんどん持っていかれる」という人たちは、当時私が感じていた怒りを持たないのだろうか?と思うのです。「今のままで良い」と思うのだろうか。

 「少子化対策、子育て支援」の名のもとに、金に余裕があって子供を産める人には金を恵み、金がなくてそもそも結婚もできない人からは金をむしり取ってますます結婚できなくして、社会的に「強制不妊手術」を受けさせたのと同じことになるわけで。世の中で給料の高い人だけ子孫を残せ、低い人は子孫を残すなって政策にどうしても見えてしまう。現代の「優性思想」とでも言えそうに見えてしまう。それでは人口増加も維持も望めなくなるのは明らかなのだけど、だから足りなくなった労働力は移民促進政策推進でしょうか。

 

 旧優生保護法で強制不妊手術を受けさせられた人たちは明らかな被害者ではあるけれども、現代では「自分は強制不妊手術の被害者」と気が付かないうちに「実質的に強制不妊手術を受けさせられたことと同じになる」という、恐ろしい時代だなと思います。