(「僕は可愛いとよく言われますが、同時にご主人様からは『頭がいい』と言われています」とビーグル犬まろさんオス9歳)

 

 静岡県の川勝知事という方が「特定の職業を差別する発言をした」ということで6月の県議会をもって職を辞すとの意を表明したそうです。

 この方、リニア中央新幹線の静岡工区で「周辺環境への影響がある」と主張されて着工を認めてきませんでした。そのためリニア中央新幹線の計画が遅延しています。川勝知事と言えばむしろその話題で覚えていました。

 今回の「職業差別騒動」は、静岡県の新入職員への訓示で「県庁はシンクタンク(政策研究機関)で野菜を売ったり牛の世話をしたりモノを作ったりとかと違い、皆さまは頭脳、知性の高い方たちで、知性を鍛えないといけない」という意味のことを言った、ということが問題化したそうなのですが、さて。

 私はむしろそんな発言を「失言」として取り上げて大事(おおごと)にして正義面するマスコミの方(ほう)におおいに問題があるような気がします。

 どうせ、新入職員への訓示なんてのは「自尊心をくすぐってこれから頑張ってもらおう」、くらいのものでしょう。マスコミとして取材する人たちだって社長とか役員とかから「○○倍の倍率を突破して入社してきた優秀な人達」くらいのことは言われたに違いないのではないですかね。私も学問の道を諦めて30代で会社に中途で入社したときに上司から「君たちは○○倍の倍率で入社してきた優秀な...」みたいなことは言われました。そういうものなんです、上の方の人は若い人を「おだてる」ものなんです。おだてたって自分の立場を脅かすわけでもないひよっこ達ですから、いい気分にさせてやれ、と。

 それで「我々が優秀だとしても、落ちた人たちは優秀じゃないのか。差別発言ではないのか」なんて新入社員が上司や社長や役員に「言葉の正義」を振りかざして言いがかりをつけたらきりがない、というかバカです。

 

 それが、マスコミともなると他の組織の訓示でそんなつまんない「くすぐり」でも「失言だ」とか大騒ぎをして報じる。つまんないことでつまんない抗議をする人たちなんていっぱいいますから、抗議の電話やメールも合わせて400通以上だったそうですが、今の時代なら「職業差別だ」と言えば錦の御旗を押し立てて行進するのと同じようになってしまう。しかしこれって、健康なマスコミでしょうかね。抗議した人たちは本当に「世論」なんでしょうかね。本当に農家や酪農家「だけ」が抗議したのでしょうかね。関係ない人たちが「義憤にかられて」とか適当なこと言い出して大勢いたのでは?

 挙句の果てには、辞職までさせた、ともなると何だか裏があるのでは、リニアの問題で対立している国と何か通じているのかな、とも思えてしまうのです。特に国からも情報を得たいということで、マスコミは国の立場に寄り添うことが大好きなようですから。いや、妄想、陰謀論の類ですけどね。

 

 県庁が本当にシンクタンクか、はさておき...私には最終的な重要な政策を自分で決められない国の出先機関のようにも思えることがありますが...それはともかく、シンクタンクに勤務していた過去のある私としては「だから知性を磨かないといけない」は当然だと思えます。昔、私の勤務していたシンクタンクは東大京大東工大卒その修士博士当たり前、最低でも早慶くらいの学歴でTOEICスコア八百数十点当たり前、私の属していた部署は全員東大出身みたいなところでしたし、学歴相応にどんな分野でも海外文献・論文等読んだりその他対面や統計調査をしたりで3ヵ月のうちには高いレベルまで達するのが当たり前というものでしたから、シンクタンクは知的であるというのは当たり前の話なのです。しかし逆に言うと「知的であるのが最大の武器、知的でなければ何も持っていないただの人」というものでしかない。

 

 翻って、農業の人は農地があり土地があり自分の力で農業生産物を生産できそれを売ることができる。酪農だってそうで広大な土地と畜産の動物がいて生産できる。子供の頃から私は「自分は他の子達より勉強ができる」と知っていたけれども、よく考えてみると実際は「そんなに一生懸命勉強しなくても将来は農家を継ぐ(他の家業を継ぐ等)のが決まってる」という子達にすれば、そもそもがそこまで一生懸命に勉強する動機がなかったわけで、「そりゃ、『持たざる者で成り上がるには勉強しかない』という自分とは違ったんだよな」と大人になって気が付きました。兼業農家の方々だって、たとえ農業所得が十分でないとしても、作った米や野菜がおいしいと喜んでいる人たちはうちも含めて大勢いて、それこそが誇りだと思うのです。「野菜を売る」が八百屋さんのことであっても、「あの八百屋さんのものは間違いない」という評判を得て経営を安定させるのは仕入れから売り方の工夫やコミュニケーションスキルなど相応の工夫と努力が必要なはずです。

 

 ものづくりをする人たちだって、ものづくりのスキルというものがある。私が宇宙研にいて研究していたときに装置の部品を加工しなければいけない場合があって、たとえば旋盤をまわすなんて私には怖くてしかたなかったし到底そんなスキルなどなかったのだけれど、熟練の方達に頼めば旋盤にしても他の工作機械にしても上手にあやつって精巧なものをつくっていただいたりしてたわけです。そんなときに「私は研究者だから上の人、旋盤回す人は下の人」なんてアホな考えはありうべくもなく、ただただ凄いなうまいな有難いなと感心するのみでした。

 

 世の中、「自分が勝負できるもので勝負」というのが当たり前なので、「知的職業だから、知的職業じゃない人たちより上だ」なんてこともない。「知的と言われる人たちは肉体労働を見下してる」みたいな言い方で挑む人もいるかもしれないけれども、そもそもが「肉体労働に耐えられないひ弱な身体だから、頭で勝負するしかない」という面があるわけで、というか私も含めそういう人もたくさんいるわけで、どっちが上だの下だのという話ではないと思うのです。「それって実際どうなの課」という終わってしまった番組で、芸人のアキラ100%さんが肉体労働の数々を経験してみるというコーナーがありましたが、あれだって「凄いな、自分はできないな、ガテン系の人どころかアキラさんほどにも自分はできないな」と感心こそすれ、「自分より下だ」の「職業差別」だのなんて考えは思い浮かぶべくもなく。

 

 世の中、「ルッキズムはダメ」と言いながら、天から与えられた若しくは整形で修正した美貌で勝負したいと思う人たちは沢山いて、とてもうまくいった人は人気俳優になったりモデルになったり、声がよければ特徴があれば歌手になったりする、そこに「知性がああたらこうたら」なんて軸は全くないのですから。大衆に受け入れられやすい美貌と雰囲気とキャラを持っているかで、「美人・美男俳優やモデルだけど人気歌手だけど学歴が高卒で『知的』でないからダメ」なんて妙な判断をする人は世の中に皆無でしょう。俳優なら最低限、台詞を覚えないといけませんし、うるさい演出家によっては「役作りが不十分だ」とか怒り出すかもしれないけど、そこはいわゆる世の中で言う「知的」とは別の次元だと思うのです。

 

 それで、今回の川勝知事の辞職まで追い込んだマスコミですが、傍若無人に「答えるのが当たり前、説明責任がある、なにしろこちらはマスコミ様なんだ、年齢が下でも社内の地位がどうでもマスコミの権威で立場が上、世論なんかどんどん誘導できる」みたいな態度って、なんだか嫌だなと思いました。

 「どうせ職業差別なんてものが根底になくても言葉尻捕まえていじめてやれ」みたいなものって、本当に、何の生産性もないような気がします。そういう「追求する側」の記者たちの方が、よっぽど「職業差別」したがってる、根本的にそういう意識に敏感だからこそ、「ここで職業差別発言だと切り取ってやれ」なんてマスコミの追求になるわけで、「社会の木鐸(ぼくたく)*」と言われ続け自分たちもそう思い込み 続け「マスコミの人間はエリートだから政治家とも対等、どころかむしろ上、世論誘導でどうにでもできる」みたいな奢り高ぶりの意識が見えてしまったような気がするのは私だけでしょうかね。

 

*世の中を教え導きただす人